史上初のJ1連破の10番。新たな歴史を刻んだ湯之前匡央は「まだアピールが足りない」と勤しむ「自分の色は消さないように」

2025年07月19日 安藤隆人

心技体が揃ったゴール

新潟戦で値千金の決勝弾を挙げた“10番”湯之前。写真:安藤隆人

「荒井涼選手がヘディングでそらしてくれて、相手の背後にボールが落ちたので、それに対して強くプレッシャーに行こうとしたら本当に転がってきたので、運を拾ったという感じでした」

 東洋大の4年生MF湯之前匡央は、試合後のミックスゾーンで笑顔を見せながら、こうゴールシーンを振り返った。

 天皇杯の3回戦。2回戦で柏レイソルを延長戦の末に2-0でくだした東洋大は、ベスト16入りをかけてアルビレックス新潟と対戦し、2-1で勝利。大学勢としては史上初のJ1クラブ連破を成し遂げた。

 新潟戦の決勝点が生まれたのは、1-1で迎えた57分。東洋大GK磐井稜真のロングキックに荒井が反応した瞬間、湯之前は一度、周囲をルックアップし、左CBの森昂大の背後に広大なスペースがあることを把握した。

 荒井のヘッドからボールがそのスペースに飛ぶと、先にそのボールに追いついた森に激しいプレッシャーをかけた。そして森のバックパスを見逃さなかった。湯之前はトップスピードに乗っていたことで、飛び出してきたGK田代琉我よりも一瞬先にボールに触り、一気に入れ替わって、無人のゴールに流し込んだ。

 本人は「運を拾った」と口にしたが、一連の流れの中でスペースの察知、強度の高いスプリント、諦めない姿勢、そしてワンタッチコントロールのうまさとアジリティ。湯之前の心技体が揃ったゴールだった。
 
「2回戦はアカデミーでお世話になったレイソルだったので無条件で燃えましたし、今回もJ1のクラブとガチンコでできることが、僕の中で大きなモチベーションでした。二度、勝てたことは自信になります」

 湯之前は中学生から柏のアカデミーで育った。U-18からトップ昇格はできず、「レイソルのようにパスで繋いでいくサッカーをやりたかった」と東洋大に進学。入学直後に大怪我に見舞われたが、復帰すると1年の後期でトップでの出番を掴み、右サイドハーフでコツコツとプレーを磨いてきた。

「サイドで高い位置を取りながら、センターバックやボランチがボールを蹴るタイミングを見計らって、飛び出すことを意識しました。昨年はセンターバックの(稲村)隼翔さん(セルティック)とよく目が合いましたし、今年は(左サイドバックの)山之内(佑成、柏レイソル内定)とよく目が合う。彼らのパスを出すタイミングを見逃さないようにしています」

 足もとの技術、パスセンス、そしてスピードに乗ったドリブルと、多くの武器を持つ彼にとって、後ろの選手との巧みな関わりは重要な能力となっている。昨年に稲村が左足で対角のキックを蹴る時、湯之前をターゲットにしていることは多かった。

 稲村のスピードと精度が抜群のボールを前に、湯之前は蹴るタイミングを理解して、一気にスピードアップし、パスを受ける時はすでに相手を剥がしていたり、ファーストタッチでかわして一気に潜り込んで行ったりと、チャンスに直結させていた。
 

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