「若き司令塔」ジャカはアーセナルのスタイルに適合できるか?

2016年07月20日 ロベルト・ロッシ

積極的に攻撃に絡むMFと組み、攻守のバランスを安定させる。

「ジャカは特別なMFであり、良いパサーであり、リーダーでもある」と語るのは、DFメルテザッカーだ。 (C) Getty Images

 ヴァーディー、カンテなど、補強では失敗が続いているアーセナルだが、そんな彼らがいち早く獲得したのが、ボルシアMG所属のスイス代表MF、ジャカだった。
 
 4500万ユーロという巨額の移籍金で加入したジャカの存在は、多くのMFが去ったアーセナルにとって重要な補強であり、ポゼッションを高めるための質の高い司令塔が確保されたと、好印象で捉えられている。
 
 では、この23歳の新鋭によって、アーセナルはどのように変わるのか? そして、ジャカはアーセナルにフィットするのか? 戦術解析に定評がある現役イタリア人監督が分析した。
 
――◇――◇――
 
 スイス代表の10番を背負うジャカは、どちらかといえば古典的なレジスタだ。ダイナミズムには欠けるがポジショニングのセンスに優れ、ワンタッチ、ツータッチでシンプルにボールをさばきながら、攻撃にリズムと方向性を与える。
 
 一気に局面を進める縦パスよりも、ポゼッションを安定させながら相手の中盤の守備ラインを揺さぶって仕掛けを準備する、横や斜めのパスが多いタイプだ。
 
 同じレジスタでも、タイプ的にはピルロよりもブスケッツに近いと言える。ただし、彼らほどの傑出した戦術センスは備えていない。
 
 どちらかと言えば縦へ縦へというスピードに乗ったダイナミックな展開を得意とするアーセナルが、どちらかと言えばポゼッションを落ち着かせるタイプのジャカに4500万ユーロ(約63億円)という大金を投じたのは、一見不可解に見えるかもしれない。
 
 しかし、もちろんそこには、はっきりとした狙いがあるはずだ。サッカーの幅を広げるためにジャカのようなタイプを必要としたと、そう解釈すべきだろう。
 
 アーセナルのサッカーは、テクニカルでスピードがあるものの、ややもすると一本調子になりがちで、しかもスコアや試合状況に応じてリズムを変え、試合をコントロールするゲームマネジメントに長けているとは言えない。
 
 ヴェンゲル監督は一時期、アルテタにそうした役割を委ねていたが、故障などでパフォーマンスが落ちてからは、フラミニ、コクランというダイナミズムを武器とする守備的MFをラムジーのパートナーとして起用してきた。
 
 新シーズンはウィルシェアの完全復活が望まれるが、ラムジーとウィルシェアのペアはバランスが悪過ぎる。レジスタとしてだけでなく、的確なポジショニングで最終ラインをプロテクトするフィルターとしても機能するジャカを2ボランチの一角に置くのが賢明だ。
 
 ラムジー、ウィルシェア、カソルラという積極的に敵陣に進出して攻撃に絡むボックス・トゥ・ボックス型のMFと組ませることで、攻守のバランスをより安定させる。
 
 と同時に、縦だけでなく横の展開によってポゼッションを落ち着かせるゲームマネジメントの幅を確保するというのが、ヴェンゲルの狙いだろう。
 
 ジャカが常にボールのラインよりも後ろに残って最終ラインをプロテクトすることで、左右のSBがより積極的に攻撃参加できるのも隠れたメリットだ。
 
 しかし、絶対的なクオリティーを踏まえれば、ジャカは大きな違いを作り出すほどのプレーヤーではない。アーセナルのメカニズムのなかで機能しつつ、チームのプレーの幅を広げる役割を担うだろうというのが結論だ。
 
 ジャカがプレースタイルを変えたり、アーセナルがシステムを変えたりするといった対応が必要だとは思わない。
 
分析:ロベルト・ロッシ
取材・文:片野 道郎

ロベルト・ロッシ/現役時代はチェゼーナの育成部門でサッキに、ヴェネツィアでザッケローニに師事。引退後はインテルなどでザッケローニのスタッフを務め、その後監督として独り立ち。昨夏からロマーニャ・チェントロ(イタリア4部)を率いる。『WORLD SOCCER DIGEST』誌では、「カルチャトーレ解体新書」などで現役監督ならではの分析記事を寄稿している。

※『ワールドサッカーダイジェスト』2016年7月21日号の記事を加筆・修正
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