テストマッチでも高評価! “42億円”の22歳、マンU新戦力のバイリーの可能性は?

2016年07月18日 下村正幸

能力は高いが、周囲に安心感を与えるレベルには至っていない。

モウリーニョ監督はバイリーについて「高くて、強くて、速い。全ての能力が備わっている」と評価している。写真はウィガン戦。 (C) Getty Images

 大きな期待と注目を集めて発足したジョゼ・モウリーニョ体制のマンチェスター・ユナイテッド。ズラタン・イブラヒモビッチ、ヘンリク・ムヒタリアンといったビッグタレントをすでに獲得し、着々と戦力を整えつつある。
 
 今後も何人かのビッグネームの到来が噂されるユナイテッドだが、モウリーニョ新監督が最初に獲得にゴーサインを出したのが、1994年4月12日生まれのビジャレアルのCB、エリック・バイリーだった。
 
 昨シーズンは19歳のアントニー・マルシアルをモナコから3600万ユーロで獲得して世間を驚かせたユナイテッド。今回も、まだ数年のプロキャリアしか持たない選手に3800万ユーロを費やしたことには、英国メディアも疑問を投げかけている。
 
 しかし、16日に行なわれたウィガンとテストマッチで、バイリーはスタメン出場して2-0の勝利に貢献。モウリーニョ監督からは「ポテンシャルを早速発揮してくれた」と高評価を得た。
 
 新天地で上々のスタートを切ったバイリーとはいかなる選手か。現在の完成度は? そして今後の可能性は? ここで改めて紹介しよう。
 
――◇――◇――
 
 バイリーは、コートジボワール最大の都市アビジャンの近郊のバンジェビルという街の生まれ。ヨーロッパに渡るきっかけは、2011年12月、17歳の時に参加したユースの大会だった。
 
 スペインのマネジメント会社が隣国ブルキナファソで開いたその大会で、エスパニョールの関係者の目に留まったのだ。
 
 スペインの労働許可が下りるまでに10か月という長い時間がかかったものの、入団してからはフベニールA(17~20歳)、そしてBチームと順調に階段を上がり、14年10月、20歳でトップチームデビューを果たした。
 
 当時から際立っていたのが、圧倒的なフィジカル能力だ。持ち前のパワーとスピードは、戦術理解の不足といった若さゆえのマイナス要素を補って余りあり、そのポテンシャルにエスパニョールの首脳陣は大きな可能性を見出していた。
 
 大きな転機が訪れるのが、デビューから3か月後の15年1月だ。コートジボワール代表として出場したアフリカネーションズ・カップで23年ぶりの優勝に貢献すると、急転直下、ビジャレアルへの移籍が成立したのだ。
 
 保有権の50パーセントしか所有していなかったエスパニョールは、臍を噛みながらも移籍を承諾するしかなかった。
 
 ビジャレアルが期待したのは、アーセナルに放出したばかりのCBガブリエウの穴埋めだった。失点に繋がる決定的なミスを犯しながらも、試合を重ねて周囲との連係が取れるになるとパフォーマンスも安定し、2月以降の16試合中10試合に先発出場。6位躍進の一翼を担った。
 
 迎えた15-16シーズンはレギュラーとして1年間を戦い抜き、天井知らずとも言えるそのポテンシャルに、バルセロナをはじめ複数のメガクラブが注目して一躍、市場の人気銘柄になる。
 
 そして熾烈な争奪戦の末、モウリーニョを新監督に迎えたマンチェスター・ユナイテッドが競り落としたのだった。移籍金は3800万ユーロ(約42億円)。たった18か月前はBチームでプレーしていた22歳は、まさしくシンデレラストーリーを実現したのだった。
 
 モウリーニョのお墨付きを得ての入団だけに、ユナイテッドでも当然、チャンスは与えられるだろう。
 
 スピードとパワーで勝負するそのプレースタイルは、まさにプレミアリーグにおあつらえ向きだ。優れたボディーバランスと運動能力で1対1を制し、背後を取られても自慢の俊足で相手に追いつき、ボールを奪い去る。
 
 絶対的に欠けているのは、トップレベルでの経験だ。ヨーロッパリーグの舞台に立ったとはいえ、レギュラーを務めたのは15-16シーズンが初めてで、まだまだ発展途上だ。
 
 テクニカル、タクティカルの両面でも、ビルドアップが不安定だったり、ポジショニングが悪かったりと改善点は少なくなく、周囲に安心感を与えるレベルには至っていない。
 
 ファンやメディアの注目度の高さが桁違いのユナイテッドは、ビジャレアルほどミスを許容してくれない環境だ。巨額の移籍金がプレッシャーにもなるだろう。モウリーニョがレギュラークラスのCBをもうひとり求めているのは、決してこのことと無関係ではない。
 
 その指揮官が認めるように、ポテンシャルは間違いない。問題は、それをいつ、どのように開花させるか。ユナイテッドにとっても、挑戦的なプロジェクトである。
 
文:下村 正幸
 
※『ワールドサッカーダイジェスト』2016年7月21日号より加筆・修正
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