流浪を続ける“天才”ハメスはなぜクラブで成功できないのか「走るのを嫌い、コンタクトプレーも嫌がり…」【コラム】

2025年06月15日 小宮良之

他に居場所を求めてしまう

現在はメキシコでプレーするハメス。(C)Getty Images

「天才」

 その言葉は、サッカー界で必ずしもポジティブには使われない。ありあまる才能を持て余す。そんな場合にも用いられる。

 サッカー界に「天才」は少なくない。早熟で、際立っていたセンスが煙のように消えてしまう。目覚ましいプレーをいくつかやってのけ、脚光を浴びるが、いつの間にか消えている。人より才能に恵まれている代償で、何かを失ってしまうのか。例えば自分と向き合うことができず、できないことから逃げてしまい、周りに責任転嫁する。

 残酷な話、「天才」の転落はプロサッカーにおいては一つのエンターテイメントですらある。

 コロンビア代表のファンタジスタ、ハメス・ロドリゲスは「天才」の典型と言えるかもしれない。十代で注目され、23歳でASモナコから世界に冠たるレアル・マドリーに移籍した時、成功は約束されているようだった。左足のキックはファンタスティック。キックの強度や正確性だけでなく、相手の裏を取る意外性が飛び抜けていた。

 マドリー1年目、背番号10にふさわしい活躍だった。彼は天才の名を謳歌した。ボールを持ったら、無敵だった。

 ところが、2、3年目は出場機会を減らす。本人は不満を感じ、バイエルン・ミュンヘンにレンタル移籍も、ポジションに定着できていない。2シーズン後、再びマドリーに戻ったが、戦力外に等しかった。

 その後は、イングランド、カタール、ギリシャ、ブラジルと各国クラブを渡り歩いたが、「ここではないどこか」を探し続け、居場所をつかめていない。

 2024年のコパ・アメリカ、コロンビア代表としてMVPを勝ち取り、再び才能が絶賛された。しかし、スペイン、ラージョ・バジェカーノでは鳴かず飛ばず、シーズン中にメキシコ1部リーグ、レオンに移籍。結局、流浪を続けている。

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「走るのを嫌い、コンタクトプレーも嫌がり、とにかく本気を出せない」

 それがハメスの苦しむ理由だという。本気を出した時の彼はすさまじいが、それが断続的にしか訪れない。天才の気まぐれか。

 ハメスがコロンビア代表で活躍できているのは、彼が"王様"で自由にプレーできるからだろう。周りが負担を背負い、ハメスは好き勝手にプレー。おかげで、背番号10として世界で屈指のファンタジーを作り出せる。

 クラブチームではそうはいかない。短期決戦ならまだしも、リーグ戦をハメスだけに依存して戦うことはリスクだろう。しかし運動量やコンタクトを求めると、彼はその場所に嫌悪を感じ、他に居場所を求めてしまうのだ。

 天から恵まれた才能。それは時に厄介なものだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。


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