【EURO】ウェールズを4強に導いたコールマン監督が背負う“ふたりの故人への思い”とは?

2016年07月03日 ワールドサッカーダイジェスト編集部

コールマンにとってのスピードは単なる前任監督などではない。

スピードの早すぎる死がもたらす悲しみや、父親への罪の意識を背負ってきたコールマン監督。手放しで勝利の喜びに浸れる日は訪れるか。(C)Getty Images

 EURO2016でベスト4進出を果たしたウェールズ代表。一連の歴史的快挙の立役者となっているクリス・コールマン監督は、逆転でベルギーを下した準々決勝の勝利を今は亡き二人の故人に捧げたに違いない。ちなみにウェールズの国際主要大会出場は二度目で、1958年ワールドカップ以来、実に58年ぶり。ベスト4まで勝ち進んだのは今回が初めてだ。
 
 一人目の故人はガリー・スピード。2011年11月、42歳の若さで自ら命を絶ったウェールズ代表の前監督だ。コールマンにとって1歳年上のスピードは「30年来の親友」(本人談)であり、現役時代はウェールズ代表で苦楽を共にしたチームメイト同士でもあった。
 
 苦と楽の割合は、苦のほうがはるかに多かったに違いない。屈辱的な"事件"が起きたのは1994年11月。EURO96の予選に臨んだウェールズ代表が、0-5という大敗を喫してしまうのだ。しかも対戦相手は、小国と言っていいグルジア(現ジョージア)だった。
 
 翌月にはフリスト・ストイチコフを擁するブルガリアに、0-3でまたしても完封負け。コールマンとスピードはどちらも、計8つのゴールを奪われたピッチに最後まで立ち続けていた。コールマンにとってのスピードは単なる前任監督などではなく、やむなく積み重ねた敗北の痛みを分かち合ってきた戦友でもあったのだ。
 
 2012年1月、自死を遂げた戦友からウェールズ代表監督を受け継ぐ就任会見の席上で、コールマンはこう語っている。
 
「母国を率いることができるなんて、おそらく私のキャリアで最も誇らしい瞬間だろう。しかし、私には嬉しくもあり、悲しくもある」
 
 もう一人の故人がパディー・コールマン。クリス・コールマン監督の実の父親だ。2年前に亡くなった父親に対し、コールマンはずっと罪の意識を感じつづけてきたと明かしている。自分が代表監督を引き受けてしまったせいで、父の死期を早めてしまったのではないのか、と。
 
 コールマン率いるウェールズ代表が奈落の底に落ちたのは、2012年9月。セルビアとの対戦で1-6の惨敗を喫した頃だ。その試合を含めた2014年ワールドカップ予選は6か国中5位であえなく敗退。上位3か国のベルギー、クロアチア、セルビアとの計6試合は0勝1分け5敗、3得点16失点という惨憺たる結果となった。
 
 コールマンはこう述べている。
 
「代表監督は、クラブの監督とは違う。家族は(本人以上に)それを感じてしまうんだ。悪い結果を出してしまえば、家族も(その痛みを)感じてしまう」
 
「大のサッカーファンだった」という父親のパディーさんは、代表監督としての息子の苦悩を少なからず共有し、胸を痛めていたに違いない。そして、そのまま帰らぬ人となる。EURO2016での大躍進という、おそらくは待ち望んでいた未来を知らずに、苦闘を強いられるウェールズ代表と息子の姿だけを脳裏に焼き付けて、2年前に74年の生涯を閉じたのだ。
 
 親友であり戦友でもあった仲間の早すぎる死がもたらす悲しみや、父親への罪の意識を背負ってきたウェールズ代表監督のクリス・コールマンが、手放しで勝利の喜びに浸れる日は訪れるのだろうか。まずは7月6日(現地時間)、ポルトガルとの準決勝に注目したい。
 
文:ワールドサッカーダイジェスト編集部
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