モンテッラは「3年越しの恋人」だった――ミラン新監督招聘の舞台裏とは?

2016年06月30日 片野道郎

ベルルスコーニ名誉会長の手術で先延ばしされた監督人事。

ミランの新たな指揮官として就任したモンテッラ。その舞台裏では様々なやりとりが交わされていた。 (C) Getty Images

 6月28日の22時(イタリア時間)、ミランは公式ウェブサイトでヴィンチェンツォ・モンテッラの新監督就任を発表した。
 
 年俸は230万ユーロ(約3億2200万円)の2年契約。ダニエレ・ルッソ(助監督)、ニコラ・カッチャ(コーチ)、エマヌエレ・マッラ(フィジカルコーチ)、シモーネ・モンタナーロ(マッチアナリスト)という、昨シーズン途中から終了まで率いたサンプドリアでともに戦ったテクニカルスタッフも、引き続き行動を共にすることになる。ミランのプレシーズンキャンプは7月7日から、例年通りミラネッロでスタートする予定だ。
 
 ミランの新監督問題が、昨シーズン閉幕後1か月以上が過ぎたこの時点までずれ込んだ最大の理由は、中国資本との間で進められているクラブの経営権譲渡交渉がいまだ決着に至っていないことにあった。
 
 具体的な名前は公式にはまだオープンになっていないが、買収に乗り出しているのは、中国トップの検索エンジン『百度』の会長兼CEOロビン・リー(李彦宏)と、チャイナスーパーリーグ王者広州恒大を保有する恒大興産を主体とする投資グループと見られている。
 
 ミランの株式を保有するベルルスコーニ家の持ち株会社フィニンヴェストと中国資本の間では、すでに70~80パーセントの株式を譲渡するという線で基本合意が成立している。あとはオーナーであり名誉会長のシルビオ・ベルルスコーニが最終的な決断を下せば、買収は本決まりになるという状況が6月初めから続いてきた。
 
 しかし、そのベルルスコーニが6月7日に心臓疾患(人工バイパスのバルブ不良)で倒れて入院し、本来ならば6月半ばまでに出るはずの結論が先延ばしになり、監督人事もその影響を受ける形でペンディングになっていた。
 
 本人以外はすべて売却を受け入れたにもかかわらず、売却を見送り自らの手でイタリア人の若手を中心に据えた中期プロジェクトを進めたいという野望を諦めきれないベルルスコーニは、来シーズンも引き続き子飼いのクリスティアン・ブロッキを続投させたいという意思を持っていた。
 
 一方、ミラン内部で来シーズンに向けたチーム編成を進めているアドリアーノ・ガッリアーニ副会長は、アドバイザーであるアリーゴ・サッキ(元ミラン監督および元イタリア代表監督)の意見を受け入れて、昨シーズンにエンポリを率いて好結果を残したマルコ・ジャンパオロと交渉を進めてきた。
 
 大きな問題は、中国サイドがブロッキとジャンパオロのいずれにも、乗り気ではないことだった。
 
 ガッリアーニは6月初めの時点で、セビージャを率いてヨーロッパリーグ連覇を果たしたウナイ・エメリと内々で合意しており、中国サイドもこの人選にOKを出していた。しかし、ベルルスコーニが決断を先延ばしにする間にパリSGがエメリに急接近し、ミランとの合意は反故になってしまった(6月28日にエメリのパリSG新監督就任が決定)。
 

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