二度の揺りかごダンス。鹿島が優勝を決めた夜、埼スタで生まれたちょっと幸せな物語

2016年06月27日 塚越 始(サッカーダイジェスト)

まさかの先発落ち――。この日、長男が誕生した梅崎は気持ちを切り替え、「途中出場からなにができるか、様々な想定をした」。

梅崎が“待望”の今季初ゴールを決める。試合当日生まれた長男が、
「プレゼントしれくれた。最高のハッピーバースデー」と喜んだ。(C)J LEAGUE PHOTOS

[J1・1stステージ17節] 浦和レッズ 3-1 ヴィッセル神戸
6月25日/埼玉スタジアム2002
 
 
 
 鹿島が第1ステージ優勝を決めた6月25日の夜、浦和-神戸戦の行なわれた埼玉スタジアムでは、ちょっとした"幸せな物語"が生まれていた――。
 
「『俺がPKを獲得できたら、絶対に自分で決めてみせるんだ』。そう自分に言い聞かせて、この試合に臨んだんです。でも、まさか、本当に訪れるとは思ってもみませんでしたけれどね」
 
 少し笑った梅崎司だが、すぐ厳しい表情に戻った。
 
「試合前日までの練習で、手応えとしては、スタメンで出られるんじゃないかと思っていたんです。でもベンチスタートだったから……、気持ちを切り替えて、途中からなにができるのかを試合中、ずっといろいろと想定していました。それで主導権を握れて、相手もゴール前を固めていたから、積極的にシュートを打っていけばPKもあるかなとは思っていました」
 
 この日、午前11時頃に梅崎のもと、長男(第二子)が誕生していた。予定より20日も早かったが、妻は安産だったという。梅崎は出産に立ち会い、「よく空気を読んでくれた」という我が子に"見送られて"、午後7時からの埼玉スタジアムでの神戸戦に臨んだ。
 
 連戦を戦ってきた宇賀神友弥がメンバーから外れ、ウイングバックでの先発が有力視された。しかし、先発の座に名を連ねたのは、今季加入した駒井善成だった。
 
 悔しかった。それでも浦和でプレーして9年目になる梅崎はこの状況を受け止め、ポジティブに解釈しようとする。自分にいったいなにができるのか、求められた仕事にどうすれば100パーセント、またはそれ以上で応えられるか。
 
 もちろん特別な日だからこそ、ゴールを決められれば――という願望はあった。
 
「長女(第一子)が生まれた日はナビスコカップ決勝の前日だったけれども、その試合に出られなかったんです。でも直後のリーグ戦の仙台戦に出場して、ゴールを決めていた。だから、今日もチャンスが来れば、決めたいと思っていました」
 
 77分、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が最後の3枚目のカードを切る。「足がつっていて走れる状態になかった」(ペトロヴィッチ監督)という駒井と交代し、背番号7がピッチに立ったのだ。
 
 

次ページ自らのシュートでPKを獲得。「譲る気はなかった」と、周りに目で“俺が蹴る”と伝える。

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