欧州中堅の中下位クラブ移籍が「ステップアップ」と呼べるのか。Jリーグのレベルは間違いなく上がった。その場に留まる勇気も必要だ

2025年02月23日 吉田治良

右へ倣えの大号令のように…いつの頃からだろう

海外へ渡る決断を下した(左から)松木、小森、高岡。(C)Getty Images/STVV/田中研治(サッカーダイジェスト写真部)

 猫も杓子も海外へ、である。

「できるだけ早く海外リーグに挑戦すべきだ」という言葉が、右へ倣えの大号令のように若い日本人選手の背中を押すようになったのは、いつの頃からだろう。

 実際に欧州へ渡り、誇るべき実績を残した先人たちがそう言うのだから、きっと間違いはないのだと思う。欧州組が日本代表の大半を占める現状を見れば、なおさらだ。ただ、「とにかく早く」が100%、全ての選手にとっての正解ではないはずだ。

 海外移籍が成功しても、たとえ失敗に終わっても、フットボーラーとして以上に、ひとりの人間として得られるものは小さくない。見知らぬ土地で、言葉の壁にぶつかりながら、自己主張しなければ誰も気に留めてくれないような世界を日々生き抜くだけでも、人生にとって大きな価値があるだろう。

 サウサンプトンからのレンタルで、現在はトルコのギョズテペで奮闘する松木玖生は、「日本にいる時とは違って時間がある分、ずっとサッカーのことを考えてしまう」と、あるインタビューで話していたが、そうして深くサッカーと向き合えるのは、たとえそこに苦痛が伴っていたとしても、欧州に渡ったからこそ得られたかけがえのない日常に違いない。
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 しかし、中田英寿さんがイタリアに渡った四半世紀前と比べれば、間違いなくレベルが上がったJリーグを離れ、欧州でも中堅と位置付けられるポルトガルやベルギー、トルコといったリーグの、それも中下位クラブに移籍することが、果たしてフットボーラーとしての「ステップアップ」と呼べるのだろうか。

 例えば、昨季のJ2でMVPと得点王をダブル受賞した小森飛絢。これまでの常識で考えれば、まだ一度もプレーしたことのないJ1クラブへの移籍が順当だったと思うが、彼はそこを飛び越して、この冬にジェフユナイテッド千葉からベルギーのシント=トロイデン(STVV)にレンタル移籍している。

 大卒3年目の24歳で、理想とするキャリアの到達点から逆算して考えれば、焦る気持ちも理解できるが、少なくとも1年は国内のトップカテゴリーでプレーし、自分が今、どのレベルにいるのかを客観的に判断してからでも海外進出は遅くなかったのではないか。残念ながら、STVV移籍後の小森は、リーグ戦3試合、わずか14分しかピッチに立てていない。

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