【CL決勝】我を捨てた120分間――そして最後にC・ロナウドはヒーローとなった

2016年05月29日 片野道郎

頭にあったのは自分が主役になることではなく、チームの勝利。

自身3度目となる欧州制覇。最も厳しい決勝戦であり、過去2回とはまた異なる喜びを感じたのではないだろうか。写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部)

 アトレティコ・マドリーの4人目、ファンフランのシュートが左ゴールポストに当たってはね返った瞬間、ゴール裏を埋めたレアル・マドリー(マドリー)のサポーターが歓声を上げた。
 
 ここまで4人全員が決めてきたマドリー最後のキッカーは、もちろんクリスチアーノ・ロナウド。落ち着いた足取りでペナルティスポットに向かうと、いつものように両足を大きく開いた仁王立ちポーズを決めて、助走を開始する。
 
 そして次の瞬間、右足から蹴り出されたボールはゴールネットに突き刺さった。
 
 歓喜を爆発させたゴール裏に向かい、誇示するかのようにユニホームを脱ぎ捨てて雄叫びを上げるC・ロナウド。そんな彼に、センターサークルから、そしてベンチから、全てのチームメイトとスタッフが駆け寄って行く。
 
 チャンピオンズ・リーグ(CL)決勝のような、慎重で神経質な展開になりがちな試合で、アタッカーが違いを作り出すのは簡単なことではない。今回も、PK戦に突入するまでの120分間、C・ロナウドは世界中からその一身に寄せられた巨大な期待に応えることはできないままだった。
 
 しかし、この試合の彼は、何としても自分が絶対的な主役として試合を決めてやろうという姿勢より、むしろどのように振る舞えばチームを勝たせることができるかを常に頭の隅に置きながら、いつになく周囲との連携を意識してプレーしているようにも見えた。
 
 守備の局面での振る舞いは、いつも通りだった。
 
 敵の最終ラインがボールを持った時にはプレッシャーをかけるものの、一旦それがかわされてからはボールのラインよりも後ろに攻め残って、相手の横パス、バックパスのコースを遮りながら、ポジティブ・トランジション(守→攻の切り替え)に備えて注意深くプレーの展開を見守る。
 
 そして味方がボールを奪うと巧妙にスペースに動いてマークを外し、最終ラインからのパスを引き出して仕掛けようとした。
 
 マドリーの前線3人「BBC」は攻撃の局面では頻繁にポジションを入れ替え、当初のマーカーの担当ゾーンから離れて、別のゾーンでボールを受けようとする。
 
 CFのカリム・ベンゼマがサイドに流れ、それと入れ替わりにC・ロナウドが中央に入り込んだり、ガレス・ベイルが前線に上がるとそのままC・ロナウドは2ライン間を横に動いて右サイドでパスを受けたりというかたちだ。
 
 とりわけ、この日のマドリーは右サイドからの組み立てが多かったこともあり、ベイルとベンゼマが右に寄っているところに、さらにC・ロナウドも加わってトライアングルを作り、そこからベンゼマやベイルが裏に抜け出すといった場面も見られた。

次ページチームのために走り続けた彼にもたらされた、正当な見返り。

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