【浦和】「人生、最悪の経験」15人目のPKキッカー駒井の身に起きた想像を絶する異変

2016年05月26日 塚越 始(サッカーダイジェスト)

キックを終えたあと、過緊張と脱力から両足が痙攣。「そういったところでも自分の甘さが出た」

延長後半7分、李の起死回生のゴールを演出した駒井。しかしPK戦では、「人生、最悪の経験」が待っていた…。写真:徳原隆元

「自分のせいで、チームを次に進めることができなかった。責任を痛感しています。人生、最悪の経験。自分自身に失望しています」
 
 運命のPK戦。浦和の8人目であり、両チームの15人目のキッカーとして、ペナルティアークに向かったのは、今季浦和に加入した駒井善成だった。
 
 選手たちが並ぶセンターラインから呼吸を整えながらゆっくり前に進み、相手GKとは目を合わさずボールをセットする。自ら間合で顔を上げてボールとの距離をはかり、GKユ・サンフンとの駆け引きを開始。
 
「相手のタイミングを外して決めるPKは、普段の練習で毎日やっていて、自信を持っていました」

 ボールに向かって一歩、二歩と緩急をつけて助走する駒井は、GKが動き出すのを最後までじっと待つ。
 
 しかし――一瞬、ユ・サンフンが右足に重心を置いたと察知し、駒井は逆サイドに狙い澄ましたキックを放つ。が、態勢を整え直して飛んだGKの左手により、ボールはゴールの外へ弾き出されてしまう。
 
 途端に全身から脱力し、放心状態に陥った。「なにも考えられない。頭の中が、それこそまっ白になった」と、FCソウルサポーターの歓声が響くなか、駒井はピッチに立ちつくした。
 
 それでもまだPK戦は続いている。センターラインまで戻らなければならない。ところが、センターラインにいるチームメイトのところに戻ろうとすると、身体が動かない。両足の太腿の裏の筋肉が痙攣を起こし出したのだ。
 
「過緊張からのようです……。キックミスだけでなく、そういったところでも自分の甘さが出ました」
 
 なんとか足をひきずり、浦和の輪のなかに戻る。その時、FCソウルの通算16人目のPKが決まり、浦和の決勝トーナメント1回戦での敗退が決定。頭を抱えて倒れ込む背番号18に、真っ先に声をかけて肩を抱きかかえたのが主将の阿部勇樹だった。
 
「いいんだ。切り替えろ。すべてが終わったわけじゃない」
 
 駒井はいくつもの励ましの言葉を受けた。
 
 試合は延長30分間を含め120分間、さらにPK戦と、長い時間が経過していた(同時に、時間を忘れるぐらいの展開でもあった)。
 
 駒井は62分から右ウイングバックとして途中出場。延長後半7分には、槙野のサイドチェンジを折り返し、李の起死回生のゴールを演出した。

 ここ最近、切り札的な起用が続いていたドリブラーが、ようやくひとつ結果を残した。浦和の一員として、さらにひとつ高みへ飛躍するきっかけを掴んだ、はずだった。

【浦和】地獄と天国を2往復。証言から紐解く「ソウルショック」の敗因と収穫
 
 PK戦のキッカーは5人目までは話し合いで決まっていた。
 

次ページソウルで砕け散った自分自身と、必死に向き合おうとしていた。

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