【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の七十二「勝敗よりも大事な“最強メンバー”の選定」

2016年05月25日 小宮良之

2連敗はやたら危機感を煽るような敗戦ではなく、驚きもない。

チームにどれだけフィットしているかではなく、どれだけ技量が増したかに目を向ける必要がある。 (C) Getty Images

 U-23日本代表は、トゥーロン国際大会のグループリーグでパラグアイ(1-2)、ポルトガル(0-1)に連敗を喫した。
 
 相手は下のカテゴリー代表(U-20代表)に近かった。好ましい状況とは言えないだろう。
 
 しかし、やたらと危機感を煽るような敗戦でもない。
 
 リオデジャネイロ・オリンピック本大会に出場するU-23代表は、手倉森誠監督の色彩が強いチームである。
 
 エモーションを組織力(固定メンバー)に落とし込んだようなチーム――。1つのかたちを作ってアジアで対抗し、勝ち上がった。
 
 手倉森監督は、人間の持っている勝ち気や反発心や負けじ魂のようなエネルギーをため込ませ、一気に放出するのが上手い"親分肌"であり、そのパーソナリティーこそが、このチームのベースになっている。
 
 アジア予選では、これをベースにして、個人の戦術や技術を切り捨てざるを得なかった。
 
 なぜなら、戦術や技術のレベルは欧州や南米と比較すれば格段に低いものの、アジアの戦いには、移動距離の長さや環境の劣悪さなどで相当な厳しさがあるのは間違いない。
 
 そのなかで、日本の戦術や技術のレベルはアジアトップとはいえ、相手を完全に制するほどの水準にはなかった。そこで、手倉森監督は固定メンバーの士気を高めながらひとつに束ね、精神力で勝つやり方を用いて、アジアをトップ通過した。
 
 しかし世界では、エモーション+組織力だけでは太刀打ちできない。少なくとも、あと2、3人、できれば5、6人の選手を入れ替え、全体の力を向上させる必要がある。そしてトゥーロンは、その鍛錬の場となっている。
 
 今大会の連敗は、現状が突きつけられただけで、そこに驚きはない。
 
 それにこの2試合、これまで固定メンバーのひとりとして戦ってきた選手たちは、あまりストレスを感じさせず、チームの駒として機能していた。
 
 例えば、オナイウ阿道は、どちらの試合でもポストとしてボールを受け、はたきというプレーをこなし、持ち前の身体能力の高さを競り合いで活かしていた。
 
 しかし同時に彼は、ほとんどゴールの可能性を感じさせなかった。所属クラブでろくに出場機会がないのもあるが、個の技量が増していないのだ。
 
 一方、新参選手は要領を得ず、迷いが先立った。初戦のパラグアイ戦は、特にそれが顕著に出た。右SBのファン・ウェルメス・ケルケン・際は、不用意な後ろ向きのパスをかっさらわれてしまった。CBがつり出され、連係の悪さも明らかだった。
 
 ただそのことよりも、富樫敬真や鎌田大地のような、原石だが煌めきのある選手をどうチームに入れ込むか、というのが大事であり、今大会での課題なのだ。

次ページリオでは組織力より個の力が浮き彫りとなる戦いが展開される。

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