【番記者通信】選手の安全は誰が守るのか?|マンチェスター・C

2014年03月26日 スチュアート・ブレナン

審判の権威を守るため、FIFAもFAもビデオ判定に消極的。

ハル対シティ戦では、ビデオ判定を含めたレフェリングについての矛盾が浮き彫りになった。 (C) Getty Images

「世界有数のフットボーラーの安全よりも、トンネルの壁にできた傷を心配する」

 イングランド・サッカー協会(FA)に与えられた最新の汚名である。シティが2-0で勝利した3月15日のハル戦は、問題視されて然るべき出来事がいくつかあった。それらに対するFAの裁定こそが、批判の対象である。

 シティは試合のほとんどを10人で戦った。開始10分、ヴァンサン・コンパニがニキチャ・イェラビッチを故意に倒したとして、一発退場になったからだ。しかし、その直前にファウルを犯していたのはイェラビッチだった。正しい笛が吹かれていれば、コンパニの退場はなかったわけだ。

 FAはこの判定ミスには目もくれず、その後の出来事、すなわちピッチを下がるコンパニが第4審判に卑猥なジェスチャーをし、スタジアム内へと続くトンネルの入り口の壁を蹴飛ばして残ったダメージを問題視した。それもビデオ裁定によってだ。

 首を傾げたくなるジャッジは、これだけではなかった。ゴール前のクロスプレーを巡るジョー・ハートとジョージ・ボイドの小競り合いで、主審のリー・メイソンはハートにイエローカードを与えた。ハートが威嚇するようにボイドに額をこすりつけたためだ。一方、別れ際にハートに唾を吐きかけたボイドは、その場ではお咎めがなかった。主審の目が届かなかったからである。

 矛盾をはらんでいるのが、ビデオ裁定に関するFAのガイドラインだ。リプレーによる事後裁定が適用されるのは、基本的にレフェリーの目が届かず、ピッチ上で判定が下されなかった事項についてだ。唾吐きがビデオで確認されたボイドは、3試合の出場停止処分を受けた。

 レフェリーの権威を守るため、FIFAもFAもビデオ判定には消極的だ。一理はあるが、公正性には欠けるだろう。例えば、ダビド・シルバに対するアーメド・エルモハマディの危険なタックルは、ビデオ判定で振り返って厳しく処罰されて然るべき類の悪行だったはずだ。エルモハマディは明らかな意図をもって、シルバの膝を狙っていた。幸運にもその瞬間、シルバの足は浮いていたため大事には至らなかったが、着地後にあのタックルを食らっていたら、小柄なスペイン人の足は砕けていただろう。

 メイソン主審がその場でエルモハマディにイエローカードを提示したために、そのタックルの悪質性は審議の遡上に載ることなく見過ごされた。イエローで済ませたメイソンのジャッジがミスなら、それを正すべきビデオ判定の適用制限は制度上のミスだろう。守られるべきは、なによりも選手の安全のはずだ。レフェリーの権威も、トンネルの壁も、選手の安全に優先することはないはずだが。

【記者】
Stuart BRENNAN|Manchester Evening News
スチュアート・ブレナン/マンチェスター・イブニング・ニュース
マンチェスターの地元紙『マンチェスター・イブニング・ニュース』のフットボール記者で、2009年から番記者としてシティに密着。それまではユナイテッドを担当し、両クラブの事情に精通する。

【翻訳】
松澤浩三
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