シャビ、カシージャス世代とイニエスタ、シルバ世代。2つの世代によるスペイン黄金期はいかにして始まったのか――。

2024年08月02日 吉田治良

名伯楽がピッチ上の全権をシャビに預けた瞬間から…

EURO2012を制し、メジャータイトル3連覇を成し遂げたスペイン代表の中心には、つねにシャビ(左)の存在があった。(C)Getty Images

 ロドリ、ダニ・オルモ、ファビアン・ルイス、マルク・ククレジャといった20代中盤の選手に、ラミネ・ヤマル、ニコ・ウィリアムスら新時代の若手が融合し、EURO2024を制覇したスペイン代表。

 グループステージから全勝での欧州制覇は史上初の快挙で、ラ・ロハに再び黄金期が到来する――。そんな期待を抱かせる優勝だった。

 そのスペインの最強時代と言えば、やはりメジャータイトル3連覇を成し遂げた2000年代後半~2010年代前半だろう。原動力となったのは、2つの黄金世代だ。美しいフットボールで世界を魅了した無敵艦隊の大航海は、いかにして始まったのか――。

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 ちょっとした波風にも耐えられなかった"張りぼての無敵艦隊"が、まさか本当に世界を従えるまでの大艦隊になろうとは、少なくとも2000年代前半までは想像すらできなかった。

 大航海時代の始まりは、08年のEUROだった。4年前のEURO2004はグループステージ敗退、2年前のドイツ・ワールドカップ(W杯)は16強止まり。良質なタレントを揃えながらベスト8の壁を破れず、"永遠の優勝候補"とも揶揄されていたスペイン代表が、疾風のようにトーナメントを勝ち上がり、44年ぶりにヨーロッパを制したのだ。

 

 敗北の歴史に終止符を打つ原動力となったのが、2つの世代。シャビ、イケル・カシージャス、シャビ・アロンソ、ダビド・ビジャの80~81年生まれ世代と、アンドレス・イニエスタ、フェルナンド・トーレス、ダビド・シルバの84~86年生まれ世代だった。

 それぞれが単体でも一時代を築けそうな2つの黄金世代を結びつけたのは、名伯楽ルイス・アラゴネス。EURO04後に代表監督に就任した彼が掲げたのは、「スペインらしさの追求」だった。サイズはなくともテクニックとゲームビジョンに優れた人材を集め、質の高いポゼッション・フットボールを実現。シャビ、イニエスタ、シルバに、87年生まれのセスク・ファブレガスを加えた中盤は"クアトロ・フゴーネス"(4人の創造者)と呼ばれた。

 長くスペインの象徴だったラウール・ゴンサレスを外し、シャビをチームの中心に据えた改革は批判も浴びたが、アラゴネスに迷いはなかった。「君がピッチの指揮官だ。責任は私が負うから、思うようにやりなさい」

 アラゴネスがピッチ上の全権を、この小さな司令塔に預けた瞬間から、すべては始まったと言っていい。

 

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