大舞台で意外な大仕事をやってのけるF・トーレス。CL決勝でも期待せずにはいられない

2016年05月06日 豊福晋

F・トーレスでなければPKにならなかった可能性も。

終盤戦を迎えて尻上がりに調子を上げてきたF・トーレス。大舞台での勝負強さを発揮し、愛するアトレティコにビッグタイトルをもたらせるか。(C)Getty Images

 フェルナンド・トーレスという選手は本当に興味深い。

 決してトラップが洗練されているわけではないし、ドリブル中にまるでコメディのようにボールを失うシーンも珍しくない。恐ろしく簡単なチャンスを外すという点において、彼の右に出る者はいないだろう。

 それでも、大舞台には常にその姿があり、意外な大仕事をやってのける。

 彼よりもシュートテクニックに優れたFWはリーガ・エスパニョーラにたくさんいるが、彼ほど栄光を勝ち取ってきた選手となると限られる。

 今シーズンもF・トーレスは、F・トーレスだった。

 リーガ終盤戦のアトレティコ・マドリーの快進撃を演出したひとり。そう言って差支えないだろう。バイエルンとのチャンピオンズ・リーグ(CL)準決勝・第2レグでは、アントワーヌ・グリエーズマンのゴールを完璧にアシスト。後半には、ドリブル突破から敵陣深くでファウルをもらう。倒されたのは明らかにペナルティーエリアの外だった。にもかかわらず、主審は迷わずペナルティースポットを指した。これがF・トーレスでなければ、恐らくPKにはならなかっただろう。まさに彼の強運の成せる業である。

 このPKを決めていれば、F・トーレスは完全に主役となっていたが、外すところもまた彼らしい。

「外した瞬間に思ったよ。バイエルンよ、たのむからもう決めないでくれ、ってね。結果的にそうなってよかった」

 淡々と振り返るところも、どこか憎めない。

 チームメイトもF・トーレスの好調ぶりを、最終盤戦の鍵と見ている。CL準々決勝のバルセロナ戦で、彼に綺麗なスルーパスを通したコケは語る。

「今のトーレスは最高の状態だ。この勢いでリーガの残り試合、そして欧州の決勝でもきっとゴールを決めてくれるはずだ」

 賞賛されるのはいつも他の選手たちだ。

 その筆頭がグリエーズマン。当然だろう。今シーズンのアトレティコの得点の大半は彼が決めている。それから、絶対的な守備の要であるCBのディエゴ・ゴディンに、リーガ最少失点を誇りバイエルン戦でも大活躍したGKのヤン・オブラク。ガビ、コケのMFに、評価急上昇中のサウール・ニゲスへの絶賛の声も多い。もちろん、ディエゴ・シメオネ監督は言うまでもない。

 しかし、人々が心の奥で最も期待しているのは、F・トーレスではないか。

次ページキャリアに足りないのはアトレティコでのタイトル。

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