Jで輝く『バンディエラ』。中村憲剛や中村俊輔、小笠原満男らが生み出す美徳と別格のスリリング

2016年04月28日 加部 究

多摩川クラシコでの川崎の4点目に「バンディエラ」の真髄を見る。

バンディエラは、その一挙手一投足がファン・サポーター、メディアから注目される存在だ。川崎ひと筋の中村憲剛はJリーグでも代表的な選手だろう。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 イタリア語で「旗頭」を意味するバンディエラ。長年ひと筋で尽くし続け、チームの顔と言える選手だが、24年目を迎えたJリーグでもそうした選手が確かな存在感を見せている。日本では代表クラスの海外移籍が常態化した今日で、改めてクローズアップされるバンディエラの凄みとは――。
 
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 多摩川クラシコのアディショナルタイムは5分と告げられていた。1点を追いかけるFC東京が攻撃に出る。しかし自陣浅めの位置でボールを奪った川崎は、谷口彰悟が躊躇なく右サイドに流れていた中村憲剛につないだ。前がかりのFC東京の守備陣は、明らかに混乱していた。同数の人数を揃えていてもマークを掴めていない。中村憲は視線を上げボールを運び始める。1メートル斜め後方からは米本拓司が追走していた。中村憲35歳、米本とは、ちょうど10歳の年齢差がある。米本が全力で追いかけていれば、少なくとも攻撃を遅らせることはできたはずだ。だがドリブルを続ける中村憲との距離は縮まらない。もうこの瞬間に勝負は決着していた。
 
 おそらく米本は、中村憲がコーナーフラッグへ運び時間稼ぎに出ると想定したに違いない。川崎はアウェーでリードをしていた。逃げ切ればいい。しかし中村憲は、それを逆手に取った。ドリブルの方向を変え内へ切り込むと、ペナルティエリアへと侵入していく。ゴール前の味方はマークを外していた。フリーの中村憲が、この位置から味方に合わせ損ねるはずがなかった。ピンポイントでエウシーニョの頭に届けて4点目。FC東京の息の根を止めた。
 
「あの駆け引き、技術。さすがのプレーでしたね」
 川崎の風間八宏監督も手放しだった。
 
 活発な点の取り合いとなった試合だが、振り返れば両者の明暗を分けたのは、こうして支柱的存在の有無だったのかもしれない。川崎の流れが淀む時は、パスの長さ、テンポに変化が乏しくなる。そんな時には、決まって中村憲が真っ先に閉塞状況を察知し、リズムを変えて試合を動かそうとする。だから全体が中村憲を見つけてボールを集めようとする。そしてそれはもう10年間以上も変わらない。
 
 つまりバンディエラとは、そんな存在だ。サポーターはチームの旗を掲げて声を上げる。選手たちも旗を見上げて戦場に向かう。すべての視線を集めて牽引していくのだ。
 

次ページ決して11分の1ではない影響力を持つからこそ生まれる別格のスリリング。

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