【鹿島】調子を落としても“外せない”柴崎岳に要求されるスペシャルな働き

2016年04月26日 田中 滋

パスを回してリズムを作るだけなら、多くの選手がこなしている。

広島戦では、相手の度肝を抜く豪快なヘディングシュートを決めた柴崎。10番には試合を決める仕事が求められている。写真:徳原隆元

 一瞬、誰がゴールを決めたのか分からなかった。ふわりと浮いたパスに呼応して思い切り高く舞い上がった選手が、大きく頭を振ってヘディングシュートを飛ばす。確か、髪の色が漆黒の細身の選手が決めたように見えたが、まるでヘディングを得意とするストライカーのようなイメージは別人を想起させる。

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 しかし、土居聖真に抱きつかれているのは確かにその人。広島を突き放す会心の一撃は、冷静沈着、つねにポーカーフェイスを崩さない柴崎岳による渾身のヘディングシュートだった。
 
 試合が終われば、そこにいるのはいつもの柴崎。
「カイオが良い仕掛けからクロスを上げてくると思った。意識したのは相手の前に入ることとしっかりと飛び込むこと。すべてがマッチして生まれたゴールだと思います。どんなボールが来るかなと思いましたけど、それが足であれヘディングであれ、すべて準備していました」
 
 淡々と、よどむことなく自身のプレーを振り返る。自分の感覚を言葉にするだけの選手も多いなか、柴崎はつねに客観性を保つ。その時自分がどう思い、なぜその結果に結びついたのかを、正確に言葉にした。
 
 とはいえ、そのJ1第1ステージ6節・広島戦のゴール以降、柴崎が鹿島の得点に絡んだプレーはない。リーグ戦8試合を終えた時点で1ゴール・1アシストという数字は、ゴールにつながるプレーの増加を目標に掲げてプレーする選手にとっては物足りないものだろう。
 
 しかし、シーズン序盤の低調ぶりからは抜け出しつつある。記録として数字には残っていないが、ラストパスの回数、ペナルティエリア内に侵入する速さ、プレーの躍動感は目に見えて向上してきた。
 
 ただし、それだけならリーグにたくさんいる"いい選手"のひとりに過ぎない。パスを回して攻撃のリズムを作るだけの役目なら、多くの選手がこなしている。
 
 求められるのはプレーの凄み、試合を決定づける圧倒的なプレーだ。そして、それは高望みでもなんでもない。つい1年前の柴崎は、実際にそうしたパフォーマンスを見せており、それこそが本来の姿のはずだからだ。
 

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