「まあ12年、歳を取っているんで」ローマ熊谷紗希が滲ませた“重厚な欧州キャリア”への矜持。セリエA終盤、そして北朝鮮戦へ「落ち込んでいる暇はない」【現地発】

2024年01月31日 中田徹

CLは僅差でベスト8進出を逃す

現在は急成長するローマでプレーする熊谷。欧州のトップシーンを駆け続ける。(C)Getty Images

 1月30日、女子チャンピオンズリーグ・グループCのアヤックス対ローマは、前半を終えて1-1のイーブンだった。3位バイエルンが首位パリSGに1-0とリードしていたことから、アヤックスとローマは共に勝たないとグループステージ敗退が決まってしまう。後半の両チームは凄まじいインテンシティで勝利を目ざした。

 後半、ローマは特にリスクを負って前に出た。CBの南萌華は後半、早めのチェックでアヤックスの攻撃の芽を摘んだ。アンカーの熊谷紗希はシンプルに前へボールを配給しながら自身も前に出て、敵陣ペナルティエリアの中で激しくボールを刈った。

 ローマにはMFマヌエラ・ジュリアーノ、アヤックスにはリベロのシェリダ・スピッツェというセットプレーの名手がいる。ジュリアーノは32分、エリサ・バルトーニの先制ヘッドをFKでアシストしたが、(おそらく負傷で)後半のピッチにはいなかった。一方、この日のセットプレーをチームメイトに託していたスピッツェは85分の左CKでひと勝負を仕掛け、ニアサイドに鋭いボールを蹴り込んでオウンゴールを誘発した。

 こうしてアヤックスが2-1で勝利し、パリSGと共に『死の組』を勝ち抜いた。アヤックスの5本に対し、17本ものシュートを放ったローマは最下位で今シーズンのCLを終えた。首位のパリSGの得失点差がたった+2だったことからも分かるように、まさに僅差の戦いだった。

 試合後のオーロラビジョンに涙を流すローマの選手が映る。殊勲のスピッツェ主将もテレビインタビュー中に泣いた。紙一重のアヤックス戦、紙一重のグループステージ敗退を熊谷はこう振り返った。

「今日の試合に勝てば、自力ではないですけど(ベスト8に)行ける状況で、この試合に臨みました。もちろん、チームとしても勝ちに行ったし、 その中で勝つチャンスはいくらでもあったとは思うんですけど、 ここでグループリーグ敗退が決まった。結果がすべてなんで...。難しいですけど、しっかり(敗退を)受け入れるしかないと思っています」
 
「結果がすべて」というコメントは、私も予期していた。しかし、両チームのゴール前での際どく激しいデュエルの応酬を見終わったばかりの身としては、結果を抜きにしてローマの選手たちを讃えたかった。

「お互い、それは命をかけてやっていますし...。やっぱり勝ちたかった。このグループで自分たちも絶対に上に行くチャンスはあったと思う。このグループで(ローマはパリSGと並ぶ10ゴールで)最多チーム得点タイですが、(11失点で)最多失点でもある。これがすべてかなっていうのは...。自分たちがこれから上に行くにあたって、修正しなきゃいけないところかなと思っています」

 2011年女子ワールドカップで日本が優勝した直後、熊谷はフランクフルトに移籍。その2年後には黄金期のリヨンにステップアップし、バイエルン、ローマでキャリアを重ねている。この4チームすべてが今季のCLに名を連ねていることも、彼女の欧州でのキャリアの積み重ねを感じる。

 その中でローマは18年に新しく誕生したチームで、瞬く間にイタリアの強豪のひとつとなり、昨シーズン初めてセリエAを制した。今回、CLベスト8に進出したアヤックスは、エールディビジ初めてCLのグループステージ参戦を果たした欧州の新興チームである。

【PHOTO】長谷川唯のダブルピース、猶本光の決めカット、熊谷紗希のキラキラネイル...なでしこジャパンFIFA公式ポートレートギャラリー

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