新潟で大きく飛躍した伊藤涼太郎、三戸舜介、小島亨介。選手たちの進化を「どう邪魔しないようにするか」が指揮官・松橋力蔵の流儀だ

2023年12月23日 元川悦子

三戸は象徴的な存在

選手の考えや自主性を尊重し、戦術や哲学を押し付けない。松橋監督がその手腕を存分に発揮し、新潟は6季ぶりJ1を逞しく戦い抜いた。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

「松橋監督は本当に自分のプレースタイルに合うサッカーをしてくれたし、良い意味で自由を与えてくれました。僕自身は弱点を克服することも大事だと思いますけど、それ以上に自分の良さである攻撃面を伸ばすことが重要だと考えていた。プロになってからも諦めずに、ずっとそこにトライし続けてきたんです。松橋さんや新潟というクラブにその考え方を認めてもらえて、良い部分を引き出してもらって、結果を出せた」

 これは、2024年1月1日のタイ戦に挑む日本代表メンバーに初選出された伊藤涼太郎(シント=トロイデン)のコメントだ。

 アルビレックス新潟時代に師事した松橋力蔵監督のアプローチによって、自分自身のキャリアが大きく変化したことを、彼はしみじみと感じている様子だった。

「(代表入りは)有言実行だから凄いですよね。でもビッグスワンに帰ってきてないからダメですね(笑)。彼は『代表のユニホームを着てビッグスワンに戻ってくる』と言っていたから、国立ではない。新潟に帰ってくるまで続けてほしいですね。

 彼がベルギーに行ってからの試合も見てますけど、いろんなポジションをやったりして、良さも出せてる試合もあれば、まったく出せないシーンもある。まだまだ苦しんでいるんだろうなと思いますけど、見てもらっている、苦しいなかでもしっかり評価される選手になって、代表に名前が挙がるのは凄いこと。ぜひ定着してほしいと思います」と、松橋監督もエールを送っていた。
 
 新潟でこの指揮官と出会い、飛躍した選手は伊藤だけではない。今季のJリーグでベストヤングプレーヤー賞を受賞した三戸舜介は象徴的な存在と言っていい。

「三戸は結構、淡々とやってる選手。メンタル的に言うと、今年は代表活動も多かったし、時差があるなかで戻ってくることもあったが、タフに戦ってくれた。もともと『世界で戦いたい』という希望を持ってる選手で、彼なりに『どこへ向かっていくか』という目標から逆算して、様々なことに取り組んで結果も出て、アウォーズで賞もいただいたのかなと思います。

 もともと点は取れる選手だと見ていました。多くの方が彼の右足を期待していると思いますけど、僕は左だと。左足のほうが点を取れるんですよ。なので、右サイドで起用することも躊躇しなかった。彼自身は右ではあまりプレーしたくないと思っているかもしれないけど、右も左も真ん中もできるし、どこでもできる。それはもともと持ってる能力ですし、試合で使えばどんどん成長する素材でした。

 ただ、出せば必ず育つわけではなくて、逆のパターンもあるので、それをどう乗り越えていくかというプレッシャーも本人の中にはあったと思います。そこで彼は田中(達也)コーチとシュート練習をずっとやって技術的な部分も磨いていましたし、成果を出せるようになった。本人は満足してないと思いますけど、成長したのを嬉しく思います」

 松橋監督はこう目を細めた。U-22日本代表のアタッカー陣の主軸になり、海外移籍も果たした若武者がこの先、どのような変貌を遂げていくのか。それを指揮官自身も楽しみにしているという。

【PHOTO】2024年元日開催のタイ戦に挑む日本代表招集メンバーを一挙紹介!

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