19歳にしてオランダで堂々レギュラーを張る日本人GK、長田澪の進化が止まらない! チーム内紛に直面も上々の“プロデビュー1年目”【現地発】

2023年12月09日 中田徹

「上田(綺世)くん? あとでユニホームを交換したい」

U-20ドイツ代表に名を連ねる長田。194センチのサイズを利した豪快なセービングが魅力だ。(C)Getty Images

 12月7日のフェイエノールト対フォレンダムは1−1のタイスコアで試合が進んでいった。

 強豪フェイエノールトにとって、小クラブ相手のホームゲームでの勝利は必須のこと。GKを除いて総攻撃を仕掛け、ようやく後半アディショナルタイム2分にエース、サンティアゴ・ヒメネスがGK長田澪(現地ではミオ・バックハウス)の守るゴールをこじ開けて勝ち越した。その後、フォレンダムのFKで長田が攻撃参加してがら空きになったゴールにイゴール・パイションがシュートを蹴り込み、フェイエノールトが3−1で勝利した。

「はああ(ため息)。やばい、負けてやばい」

 そう言うと、長田はしばし言葉が出てこなかった。

「今日はいい試合をしました。ほんと、誰も責めたくないです」

 ズウォーレにホームで0−5の惨敗を喫した5日前も長田は凹んでいたが「凹み方の質が違います」と、善戦を勝点につなげることができなかったフェイエノールト戦を悔やんだ。

「もうちょっと俺もクレバーじゃないとな…」

 それは時間の使い方。最下位に沈むフォレンダムにとっては喉から手が出るほど勝点が欲しい。90分に遅延行為でイエローカードをもらった長田は、もっと早くから時間を消化するプレーをしなければと反省していた。

「そういうのでもっと時間取れていたら。最後の2分…。そういう世界ですからね。本当に悔しかったな。全員気合が入っていたし、全員すごい良い守備をしたし」
 
 川崎フロンターレのアカデミーで育ち、中学のときに祖父母の住むドイツの学校に通い始めた長田はブレーメンから今季、フォレンダムにレンタル移籍し、開幕から守護神の座を掴み取った。ティーンネイジャーとしてエールディビジに全試合フル出場し続けているのは19歳の長田(U-20ドイツ代表)と17歳のDFヨレル・ハト(アヤックス、オランダ代表)の2人だけだ。チームは低迷しているものの、プロ1年目の出だしは上々である。 

 一方、クラブは内紛で揺れている。会長は超有名歌手のヤン・スミットで、現場責任者はアヤックスで『プラン・クライフ』という育成改革を推し進めたビム・ヨンク。その仲間の『チーム・ヨンク』――彼らが前節の対ズウォーレ戦前後に総退陣したのだ。

 マティアス・コーラー監督も『チーム・ヨンク』のメンバーだったため、今週クラブを去った。その背景には健全経営を目ざす監査役会と、チームの強化・発展を目ざすスミット会長&『チーム・ヨンク』の対立があった。フォレンダムが0対5の失態を演じたのは、その最中だった。

「0対5の翌々日の練習前に朝食を摂った。そこに(コーラー)監督はいたんです。しかしその10分後にいなくなった。この10分間で(監査役会から退団を)言われたんだと思います」

 大混乱のクラブに身を投じたことに、長田は何を思うのか?

「昨シーズン、U-19チームとリザーブチームでプレーした週末以外は、ずっとトップチームで練習していったので、プロがこういう毎日というのは分かっていました。もちろんフォレンダムのケースは極端ですけれど、ここがプロのなんだか嫌だけど、好きでもあるところ。本当に明日、何があるか分からない、そんな毎日だと思います。

 俺、このクラブ、ここのファンが大好きなんです。今まで一緒にやってきたマティアス(コーラー監督)、イェスパー(ファン・レーウウウェンTD)にはフォレンダムに来てから親切にしてもらい感謝しています。『彼らのためならなんでもする』みたいな気持ちでした。でもチームにとって何が一番助かるかというと、自分がいいプレーをすること。ゴールキーパーはちょっとフィールドプレーヤーと考え方が違っており、本当に自分にだけ集中していれば良い。そのことをブレーメンのコーチから学びました。ピッチ外のことを気にしなくはないけれど、監督が替わっても自分に集中して、チームに集中して、まずはサッカーだけやる。

 正直、俺は今週、そのことをよくできたと思うんです」

次ページ「小さな村の小さなクラブだからこそ団結感があるのを感じます」

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事