【采配検証】チュニジアは昨年完勝もさすがに…日本のステイタスの変化を物語る試合だった。現ベストメンバーで見えた課題は?

2023年10月18日 加部 究

数少ない決定機を冷静に流し込めるのは、得点王の成せる業

チャンスを確実に仕留め、先制点を奪った古橋(中央)。手洗い祝福を受ける。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

[国際親善試合]日本 2-0 チュニジア/10月17日/ノエビアスタジアム神戸

 日本代表のステイタスの変化を如実に物語る試合だった。
 
 昨年はキリンカップ決勝で完勝しているチュニジアだが、さすがに最近の日本代表の快進撃を見て負けないことを最優先し、5-4-1でスペースを消して来た。アウェー戦でコンディション等の条件も鑑みれば、一泡吹かせるのも難しいという判断だったはずだ。

 おかげで日本代表にとっては、これから始まるワールドカップ予選に向けて格好のレッスンになった。おそらくアジア内でも、同じように徹底してスペースを消してくるチームが大半を占める。しかし、チュニジアほどフィジカルやテクニックに長けたチームは見当たらない。逆に日本にとってチュニジア戦は、従来最も苦手としてきたタイプの試合だった。
 
 実際、日本は圧倒的にボールを支配しながら、チャンスメイクには苦しんだ。最後尾に5人のDFを並べるチュニジアに対し、その外側に伊東純也と旗手怜央が張り出し、まずはサイドからの切り崩しを意識したようだ。ところがスペースが狭まった分だけ精度が求められ、序盤から板倉滉、遠藤航、富安建洋が立て続けに斜めのパスを旗手に送ろうとして失敗に終わっている。

 そもそも旗手はユーティリティとして重宝されがちだが、ワイドではなくパスを駆使してフィニッシュに絡んでいくインサイドハーフとして能力を発揮する選手だ。結局、旗手が得意エリアのインサイドに入っていくのに対し、トップ下の久保建英はサイドで開いて受けるケースが目立ち、森保一監督推奨の現ベストメンバーは、攻撃面の連係では隔靴掻痒感が否めなかった。
【動画】古橋だ!伊東だ!チュニジア戦の鮮やかな2ゴールをチェック!
 ただし崩すことが難しくても、このチームには前線からの連動した守備で最終ラインも押し上げ、隙のないゲームを進める習慣が徹底されている。前半はチュニジアが日本のボックス内に侵入したのは1度だけなので、専守防衛のチームが疲弊して集中力が薄れていくのは必然だった。先制点は幸運にフリーの古橋享梧の足もとにボールがこぼれて生まれたが、偶発的な数少ない決定機を冷静に流し込めるのは、やはりスコットランドリーグ得点王の成せる業だった。

 日本は高い位置から狙いを定めた守備からゴール奪取を、チュニジアの方は堅守をテーマとした試合で、前者が先手を取ったわけだから当然後者は困窮する。途中からは4-3-3で、時には最前線からプレスもかけるようになるが、逆に最終ラインの枚数が減った分だけ日本のプレッシングが奏功するようになり、後半は決定機が頻発してピッチ上もスタンドも活気が漲った。
 
 指揮官にとっても、後半は有益なデータ収集が出来たに違いない。トップ下として送り出した久保を右サイドでも試し、サイドから飛び出していく浅野拓磨の適性も再確認できた。また、この日は左SBでプレーをした町田浩樹の成長は、日本代表に一層幅広い戦術を担保した。そして何より浦和ではレギュラーを奪取できなくても、今後国際舞台で勝ち抜いていくには鈴木彩艶の存在が重要な意味を持つことを予感させた。

 これまでの日本は、アジア内と世界で2つの戦い方を強いられた。もちろん今でもアジア予選と全く同じ戦い方でワールドカップも勝ち抜けるとは限らないが、今ではそれほど落差の大きな戦術を駆使する必要性は薄まっている。確かにカナダやチュニジアとの対戦で、ドイツを打ち破るような達成感を味わうことはできない。しかし逆に最近は来日するチームが、軒並み真剣に準備をして日本戦に臨んで来るようになった。

 それは日本代表にとって大きな収穫である。

取材・文●加部究(スポーツライター)

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