【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』其の五十七「ポゼッションに不可欠な “ウイング”の育成と台頭を望みたい」

2016年02月10日 小宮良之

メッシは今もバルサで学んだ「ウイング理論」を実践している。

サイドに開いて起点を作り、単独突破と連携で敵の守備網を崩す――。メッシのプレースタイルはウイングを重要視するバルサのカンテラで形成された。写真:Rafa HUERTA

 昨今、日本サッカー界では空前のポゼッション信仰が巻き起こっていたが(今はその熱がすっかり冷めかけている)、"ボールをつなぐためのつなぎ"になってしまう傾向も強かった。最終ラインで振り子のような曲線を描いてボールをつなぐだけ。それはポゼッションとは呼べない代物だった。
 
 ポゼッションをポゼッションとして完成させるために足りなかったのは、ウイングというポジションだろう。
 
「ウイングなしではフットボールは成り立たない」
 
 バルセロナの基礎を築いたかのヨハン・クライフはその重要性を説いている。1988年に監督に就任したクライフのテコ入れがバックボーンとなって、バルサが生んだ集大成的な選手が、なにを隠そうリオネル・メッシだった。
 
 いまやメッシはウイングという枠を逸脱した全知全能のアタッカーになったが、「サイドでプレーすることでチームに幅を与える。また、一人で仕掛けることによって敵の守備網にダメージを与えつつ、中央の攻撃を有効にする」というバルサのカンテラで叩き込まれたウイングの基本理念と役目を、今も実践している。
 
 どんなにボールスキルの高い選手を揃えて、高速パスをつなぎ続けても、回すだけでは相手のプレッシングにどこかではめられてしまう。それを打開するには、ギリギリまでピッチの横幅を使い、ボールを持って仕掛けることで敵の守備陣形を撓ませ、さらに中央の攻撃を活性化させる、というウイングが担うプレーが不可欠となる。横の揺さぶりがあってこそ、相手も対応に苦慮するのだ。
 
「ウイングの育成には我慢も必要。受け身になると脆弱性も含んでいるからね。このポジションを熟成するには、専門的な知識やトレーニングが求められるだろう」
 
 かつてそう語っていたのは、スポルティング・リスボンの下部組織の指導者だった。スポルティングはこれまでにパウロ・フットレ、ルイス・フィーゴ、リカルド・クアレスマ、クリスチアーノ・ロナウド、ナニなど名だたるウインガーたちを輩出したことで知られる。クラブは野放図にドリブルが得意な選手を好んでプレーさせてきたわけではない。ウイングというポジションの選手の能力を意図的に進化させてきたのだ。

次ページ日本には「混血種」のようなウイングバックが多い。

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