「ベンチに置くのは惜しい」とレジェンドOBも太鼓判の上田綺世。ヒメネスとの共存待望論に本人は「やりやすいし、吸収して成長の糧にしたい」【現地発】

2023年10月03日 中田徹

「フェイエノールトでふたりは一緒にプレーしたいと願っている」

途中出場が続く上田ながら、着実に声価を高めている印象だ。(C)Getty Images

 フェイエノールトの選手たちが試合前のウォーミングアップに姿を現すと、真っ先にCFサンティアゴ・ヒメネスのチャントが聞こえてくる。

 エールディビジの得点王争いのトップに立つメキシコ代表ストライカーはいま、絶大な支持をサポーターから受けている。とりわけ第6節のアヤックス戦はすごかった。フェイエノールトの選手として初めてヨハン・クライフ・アレーナでハットトリックを完成させ、チームの4-0の勝利に貢献したのだ。

 デ・クラシケルと呼ばれる伝統の一戦で、上田綺世は80分から左ウイングとしてピッチに立った。中央やや左でクサビ役になった上田は、中央のヒメネスを横切るように追い越して右ハーフスペースへ飛び出した。惜しくもMFウィーファーからの縦パスが強すぎたため、上田のフリーランニングはビッグチャンスに至らなかったものの、オランダ人記者たちは「ヒメネス×上田」の共存を確信した。

 その後、ヒメネスがエゴを捨て、上田にパスを出したシーンがあった。フェイエノールトのレジェンド、ビーレム・ファン・ハネヘムは自身のコラムでこう書いた。

「試合の終盤、彼(ヒメネス)は絶好のチャンスの位置で上田にパスを出した。そのことは何かを意味する。上田は彼のライバルなのだ。それでも彼はチームのためを思って、この選択を採った。ヒメネスもまた、上田がベンチに置いておくには惜しいプレーヤーであることを分かっている。その瞬間、私は幸せな気分になった。フェイエノールトでふたりは一緒にプレーしたいと願っている。そして、そうあるべきなのだ」

 宿敵アヤックス相手の快勝にフェイエノールトは大喜び。上田も満面の笑みでヒメネスと固く握手をかわした。殊勲のヒメネスは試合後にこう語った。

「上田がいて、僕は本当に嬉しい。彼はとてもいいストライカーだ。僕たちはお互いに高め合うことができる。彼にはもっと出場時間が与えられて然るべきだ」

 9月30日のゴー・アヘッド・イーグルス戦、チームは2-0でリードしていたものの、ヒメネスはなかなかゴールを決めることができなかった。この試合にフォーカスするアルネ・スロット監督はチーム3点目のゴールをヒメネスに託す。そしてついに75分、ヒメネスの左足が火を吹いて開幕2節から6試合連続となる今シーズン10ゴール目を決めた。

 その3分後、スタンディングオベーションを浴びながらヒメネスがベンチへ下がり、代わりに上田がCFを務めた。ゴー・アヘッド・イーグルスが1点を返し、3-1のスコアでフェイエノールトが5連勝を記録した。

 TVレポーター、ハンス・クラーイJrの「なんで上田をもっと早い時間で投入しなかったのか?」という質問に、スロット監督は「我々の"第1ストライカー(ヒメネス)"は良いプレーをしたが、ゴールがなかった。このような状況で、そう簡単にストライカーを下げることはできない」と答えた。

「つまり、アトレティコ・マドリー戦のことは、あなたの頭の片隅になかったわけですね」と質問が続くと、指揮官は「まったくなかった。サンティ(ヒメネス)がゴールを決めて3-0となって、アトレティコ・マドリー戦のことを考えはじめることができた。綺世を起用できたのはよかった」と説明した。
 
 昨シーズンの出場停止処分が残っているため、ヒメネスはCLの2試合、9月23日のセルティック戦(ホーム/2-0で勝利)、10月4日のアトレティコ・マドリー戦(アウェー)でプレーできない。しかし、上田はドイツ対日本戦で負傷したためセルティック戦に出場できず。アトレティコ・マドリー戦には出場できる見込みだが、ここまでオランダリーグ6試合1ゴール、112分間の出場機会にとどまっている。

 誤算だったのはフーリガン騒ぎによってデ・クラシケルが残り35分で中断し、日曜日と水曜日に分けて試合をすることになった点。本来ならNACとの練習試合で上田をプレーさせ、コンディションとゲーム勘を上げたいところだったがキャンセルせざるを得なかった。ゴー・アヘッド・イーグルス戦後、上田はこう語った。

「怪我もありましたし、いまも毎試合、長い時間出られる状況ではない。だから限られた時間のなかでより早く自分がどういう選手か(理解してもらう)というのもそうですし、結果を求めないといけない。そういうフェーズに入っていると思います」

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