【現地記者の英国通信】ヴィエラのスピーチに恩師のヴェンゲルの名が出なかったのは多少の驚きだった

2016年02月10日 スティーブ・マッケンジー

ちょっとした驚きを提供したヴィエラのスピーチ。

記者からも功績が認められたヴィエラ(中央)の他にも、豪勢な会場にはアーセナルで黄金時代を築いたラウレン(左)、プティ(右)の姿も見られた。 (C) Steve Mackenzie

 私は最近、ロンドン中心部のウエストミンスターにあるサボイ・ホテルで行なわれたフットボール記者協会(FWA)が主催する祝典に出席した。
 
 記者がイングランドで活躍するフットボール関係者たちを対象に、その功績を表彰するこのアワードは1948年から行なわれ、昨年はアーセン・ヴェンゲル、アレックス・ファーガソン、ボビー・ムーア、デイビッド・ベッカム、スティーブン・ジェラードが受賞している。
 
 そして、今年の受賞者にはパトリック・ヴィエラが選ばれた。
 
 このフランス代表とアーセナルのレジェンドは、2011年の引退後、マンチェスター・シティのアカデミーコーチとなり、2013年からはリザーブチームの監督を務めた。そして、昨年11月にシティの傘下クラブでもあり、アンドレア・ピルロ、フランク・ランパード、ダビド・ビジャといったタレントが所属するMLSのニューヨーク・シティの監督に就任していた。
 
 会場のサボイ・ホテルは、とてもエレガントで評判が高く、詰めかけたジャーナリストやゲスト、そのパートナーたちを華麗に演出。会場では豪華なディナーが提供され、ヴィエラの受賞挨拶が始まった。
 
 ヴィエラは引退後にシティグループの人間となったが、彼がイングランドで最も記憶されているのは、『The Invincibles(無敵のチーム)』と呼ばれたアーセナルでキャプテンを務め、全盛を極めた現役時代のことだ。
 
 とくに彼らの最大のライバルにして、感情を剥き出しにするマンチェスター・ユナイテッドのキャプテンであったロイ・キーンとは度々衝突し、そのぶつかり合いは古くからのプレミアファンの脳裏にも焼き付いているはずだ。しかし、ヴィエラは意外にも激情型のキーンをどれだけ尊敬していたかをスピーチで明かした。
 
 そして、シティの管理部長のブライアン・マーウッドも登壇し、ヴィエラをアメリカに向かわせたのは近い将来、シティの指揮官に戻すことを狙い、監督の経験を養わせるための計画であることを語った。
 
 会場にはヴィエラとともにアーセナルで成功を掴んだチームメートのラウレン・エタメ、リー・ディクソン、エマニュエル・プティの姿も見られた。
 
 この夜の邂逅した隆盛を誇った当時の面々を見る限り、彼らには素晴らしいチームスピリットがあり、それが成功に欠かせないものであったことは明らかだった。
 
 ただ、私は1つだけに気になったことがある。それはヴィエラがスピーチの中で、アーセン・ヴェンゲルの名前を一度も出さなかったのだ。
 
 ヴェンゲルはアーセナルでヴィエラを最高のフットボーラーのひとりに仕立て、いくつものタイトルを獲得し、固い信頼関係で結ばれた監督であるはずだ。ゆえにヴィエラのスピーチには少々驚かされた。
 
 これに関してアーセナルの同僚だったマーティン・キーオンは「話の中心はアーセナルでの時間だったけど、ヴィエラはアーセナルをあまりにあっさり離れたからヴェンゲルとの思い出を語らなかったんじゃないか?」と口にしている。
 
 多少の驚きはあったにせよ、私は全体的に優れたスピーチで楽しませてくれた立派な受賞者たちと一緒に、とても充実した時間を過ごすことができた。

文:スティーブ・マッケンジー
翻訳:羽澄凜太郎

 
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