浦和で10年プレーした元なでしこ、吉良知夏はなぜ32歳で“オランダ日本人女子選手第1号”への道を選んだのか【現地発】

2023年09月15日 中田徹

創設12年のテルスターでもナンバー10を担う

念願だったオランダ挑戦を果たした吉良。充実の表情を浮かべる。写真:中田徹

 オランダ女子エールディビジは12チームから構成されるリーグだ。2007年からスタートした若いリーグは、12年から15年までベルギー&オランダの合併リーグ『BeNeリーグ』として実験的役割を果たした。単独リーグに戻ったのは15-16シーズンのことだ。

 この間、多くのチームが生まれては消え、消えては復活した。2011年創設のテルスター女子チームは、解散したAZ女子チームの選手引受先として誕生したチーム。しかし17年、本拠地を移してAAアルクマール(今季からAZ)として再出発することになり、テルスターは一旦女子サッカーの使命を終えた。それでもクラブ内部の女子サッカー熱は残っていたため活動を再開。昨季からエールディビジに参戦し、11チーム中10位でフィニッシュした。

 その新生テルスターで今季から10番を付けるのが元日本女子代表のMF/FW吉良知夏(32歳)だ。

「テルスターは本当に若いチームで、やりたいサッカーにも勢いがあって、ハイプレスからのポゼッション。サッカーは『いま、力を使おう』とか『いまはちょっと落ち着かせよう』とかあるじゃないですか。でもテルスターは若いから全部全力でやる。そのことを私はポジティブに捉えて体力作りに励みます」

 練習ではかなりスプリントすることが多いという。「こんなに練習で走るものなの?」と吉良が他チームの事情を知るチームメイトに聞いたところ「テルスターはハード」という答えが帰ってきた。

「テルスターはハイプレスのサッカーをするので、スプリントを多くメニューに取り入れているんだと思います」

 フォルトゥナ・シッタールトは10か国の選手たちから構成されるが、彼女たちは例外中の例外。なかには選手全員がオランダ人というチームがあるほど、オランダ国外から来る助っ人は少ない。テルスターの場合、吉良のほかにはモロッコ女子代表のFWサムヤ・ハッサニがいるが、彼女はアムステルダムで生まれ育った選手である。吉良とテルスターを結びつけたものはなんだったのだろうか。
 
 吉良は今年2月から半シーズン、スペイン女子2部リーグのSE AEMでプレーした。3月26日、バルセロナBとのアウェーマッチを視察に来たサッカー関係者から「オランダでプレーする気はないか? 最近、プロリーグになったから興味があれば」と言葉をかけられた。「私はオランダでプレーしたいと思っていました」と吉良は答えた。

 SE AEMからは契約延長のオファーもあったという。しかし、吉良は"エールディビジの日本人女子選手第1号"になることを選んだ。自身のプレーを集めた動画を各クラブに送ったところ、テルスターから「映像を見ました。良かったです。あとはあなたの人柄がチームとマッチするか直接見てみたい」という連絡が来て、7月、1週間のトライアウトを受けるためにオランダへ飛んで合格。8月、再び渡蘭してテルスターに合流した。

 目標はコンスタントに試合に絡みながら5ゴール・10アシストという数字を残すことだ。

「この数字はクラブとも話し合ったことです。これまでプレーしてきたクラブでも、目標設定の面談とかあったんですが、テルスターはこの目標を達成するために、クラブとして選手に対してどのように取り組んでいくか、そういう協力もしてくれるんです。私にとって初めてのことです」

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