「暗いサッカー」“人気のない智将”ベニテスはなぜ2年目に失速するのか。選手が「嫌気が差した」と嫌悪した練習法とは?

2023年08月08日 小宮良之

体育学をフットボールに持ち込んだ専門家

現在はスペインのセルタで指揮を執るベニテス。(C)Getty Images

「次の対戦相手はどのようなプレースタイルで、どこに弱点があって、何が武器か」

 今や世界中のクラブに、分析(戦略)担当がいる。彼らは対戦相手を細かくスカウティングし、データを解析し、それを元に首脳陣が戦略を立てることが通例になっている。数値化、グラフ化したデータは、ありあまるほど手に入る。それを自分たちの戦力と照らし合わせることで、戦いの筋も見える。

 人工知能などを駆使する時代の到来は新しいが、大量で緻密な情報を整理し、一つの仮説を立て、実行することは定石で、昔からやってきたことの一つと言えるだろう。

「敵を知り己を知れば百戦して百勝危うからず」

 孫子の兵法の時代から、戦いの法則だ。

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 しかしながら、情報(データ)に頼り過ぎたチームは意外なほど脆い。データを押し付けられると、選手たちは辟易し、意外なほどに消耗、サッカーへの活力が尽きるとも言われる。例えば日頃からフィジカルデータを取られ続け、厳しく管理され、プレーを数値化されるのは、自分の可能性を狭められているような気分になるようで、相手のデータを必要以上に受け取ると、嫌気が差すのだ。

 サッカーが「生」のスポーツで、選手がどこかで感覚的、本能的なものを楽しみたい、という衝動があるのかもしれない。

 スペインの名将ラファエル・ベニテス監督は、多くのクラブで監督就任1年目から結果を叩き出している。バレンシアをスペイン王者に導き、リバプールに欧州戴冠をもたらし、インテル・ミラノではクラブワールドカップ優勝、チェルシーでヨーロッパリーグ優勝、ナポリではコッパ・イタリア優勝とありあまる栄光に浴してきた。

 ベニテスは体育学をフットボールに持ち込んだ専門家と言える。究極のデータ主義者で、論理的思考でサッカーにアプローチ。「アミスコ」(フランス・SUP社製のプレー分析システム。専用カメラでピッチ上の選手を追尾し、走行距離やプレーエリア、ドリブルやパスの方向、角度といった多角的なデータを収集できる)への依存度も高かった。
 

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