連盟会長の「決定発表」にアンチェロッティは困惑、マドリー会長は激怒。セレソンの後任監督騒動はなぜ起きた?ブラジル人記者が糾弾「リスペクトを欠く」【現地発】

2023年08月08日 リカルド・セティオン

「24年7月のコパ・アメリカからはアンチェロッティが指揮を執る」と発表

アンチェロッティはブラジル代表監督就任内定を否定した。(C)Getty Images

 半年以上空白だったブラジル代表監督の座が決まった、かに思われた。7月4日にCBF(ブラジルサッカー連盟)のロドリゲス会長はフェルナンド・ジニスが1年間の期限付きでセレソンの指揮をすることを発表した。しかし実は事態は収拾するどころか、より複雑な方向に向かっている。

 まずはここまでの成り行きを簡単に説明しよう。

 カタールW杯より遡ること半年、当時セレソンを率いていたチッチ監督は結果にかかわらず大会後に引退することを発表した。家族などとより多くの時間を過ごしたいというのがその理由だった。しかしブラジルサッカー連盟(CBF)は、内部の政争に明け暮れ(前会長がセクハラなどで起訴され引退、連盟内はカオスだった)、次期監督の用意をまるでしてこなかった。

 ただ一つだけCBFが決めていたのは、"外国人監督にすること"だった。近年はブラジルの強豪クラブの監督も多くが外国人であり、ブラジル人監督の劣化が叫ばれていたからだ。W杯のタイトルから遠ざかって20年以上、ブラジルはそろそろ優勝する必要があった。ブラジル人監督でだめなら、外国人というわけだ。

 ただそこには一つだけ大きな思い違いがあった。CBFは"世界で唯一5度W杯も優勝したブラジル代表監督は誰もが喉から手が出るほど手に入れたい名誉職"であると信じていた。しかし蓋を開けてみると、声をかけた名監督からはことごとく断られてしまった。ジョゼップ・グアルディオラ、ジョゼ・モウリーニョ、ルイス・エンリケ、ジネディーヌ・ジダン、トーマス・トゥヘル...すべて答えはNOだった。

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 唯一完全に否定してこなかったのがカルロ・アンチェロッティだった。ただ彼はいまだレアル・マドリーとの契約が1年残っている。彼はこれまですべての契約を守ってきており、今回もこれを遵守したいと主張。だがW杯予選はすでにこの秋から始まるので、来年の6月までをどうするかというのが問題とされた。その解決策がフェルナンド・ジニスだった。

「2024年6月まではジニスが暫定監督となり、2024年7月のコパ・アメリカからはアンチェロッティが指揮を執る」

 ロドリゲス会長はこう発表した。ジニスは経験こそ少ないが優秀な監督だ。またこれまでも彼は、特別扱いを主張してくるわがままなブラジルのスターたちとも仕事をしてきた。例えばサンパウロ監督時代、ダニエウ・アウベスがフルバックでなく中盤としてプレーしたいと言った時も、それをかなえてやっている。ネイマールのとんでもない要求もジニスはうまく処理するだろう。

 ただ彼はいまだフルミネンセの監督だ。フルミネンセは彼を手放すことを拒否。代わりに、セレソンの試合がある時だけCBFに監督を貸し出すことには同意し、契約はあっさりと成立した。フルミネンセがOKしたのはCBFに恩を売っておきたいからだ。今後何かと便宜を払ってもらえる。まあ喧嘩をするよりは得策というわけだ。

 だがフルミネンセのサポーターにとってはたまったものではない。なんでアンチェロッティにやらせなかったことをジニスにはやらせるのか? もし代表にかまけてクラブが負けたら彼らは許さないだろう。実際少し前の試合で、キックオフ前に選手たちの名前に続き監督の名前が呼ばれた時、しばらくはブーイングの嵐だった。
 

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