内容的にも明らかに上。高倉監督時代とは何が違うのか――。前回大会と東京五輪は最終戦が最も優れていた【女子W杯】

2023年08月02日 西森彰

派手さのない、地味できついタスクでも、全員が納得すれば徹底できる

圧倒的な強さでグループを首位突破した、なでしこジャパン。勢いは決勝トーナメントに入っても続くか。(C)Getty Images

 なでしこジャパンは、ザンビア、コスタリカに続き、躍進著しいスペインをも破り、女子ワールドカップ(W杯)のグループステージ(GS)3連勝で首位通過を果たした。前回大会もGSは抜けているが、1勝1敗1分でギリギリの2位通過。成績だけでなく、内容的にも明らかに今回のほうが上回っている。

 その理由のひとつには、チームとしてのまとまりがある。日本の一体感は、敗れたスペイン関係者からも語られた。前回大会で指揮を執った高倉麻子前監督は、多くの選手を招集し、チーム内の競争で個の成長を促そうとした。選んだ選手の個性に合わせてやり方を変えた結果、チームとしての方向性は醸成されにくかった。

 誰が本大会に選ばれるのか、その競争は直前まで話題になったが、選手の心身両面での消耗は激しかった。選ばれたところが終着点となってしまった選手もいるように見えたし、競争関係から協力関係へ意識を転換する時間も足りなかった。

 その結果、前回大会でも東京五輪でも、チームに勢いをもたらすはずの初戦が難しい戦いとなり、大会を後にすることになった最終戦が、試合内容では最も優れていた。

 これに対して、池田太監督は就任以来、2018 年のU-20女子W杯で、ともに頂点へ辿り着いたメンバーを軸としながら、チーム作りを進めた。大会が迫るにつれて、ある程度の序列や傾向が定まっていき、大会初戦のザンビア戦の先発メンバーは、多くのメディアの予想どおりになった。先発を読まれるデメリットがあったとしても、それは全員が果たす役割を理解するメリットと、トレードオフの関係にある。

 スペイン戦前半の3点に目を向ければ、2、3点目は宮澤ひなたと植木理子が互いにアシストしあって生まれた。価値ある先制点は、左サイドの遠藤純からの裏へのクロスにスプリントで抜け出した宮澤が合わせて奪った。

「(遠藤が)あそこで持った瞬間、裏を狙うというのはお互いに分かっている」という植木の動き出しが、手前のDF2人の注意を引き付け、宮澤のゴールを助けている。年代別代表から培ってきた、このあたりの呼吸は大きな強みだ。
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 また、チームとして複数のゲームプランを準備できていれば、対戦相手は結局のところ、出方に迷う。今のチームには、初期に掲げた、前からのプレスで奪っての速攻と、スペイン戦で効果を発揮したブロックを敷いてのカウンターが備わっている。このふたつは、全く別のサッカーだ。

 コロナ禍もあって、東京五輪前は対戦相手、数が限られていた。今回は、国内こそ格下相手の試合も組まれていたが、強豪とのアウェー戦をしっかりと消化できていた。結果がついてこない時期もあったが、課題を洗い出すとともに、現時点での世界の中でのなでしこジャパンの立ち位置を、全員が認識することにつながった。

「欧州遠征で対戦して、ボールを長い時間、持たれることは分かっていた。でも最初から『相手にボールを回される』と割り切ってさえいれば、こちらも必要以上のストレスをためずにプレーできる」とは田中美南。派手さのない、地味できついタスクでも、「そうしなければ勝てない」と全員が納得すれば、徹底できる。

 身の丈以上に背伸びすることなく、しっかりと地に足をつけて戦う、今回のなでしこジャパン。チャレンジャーとして、選手が力を出し切る戦いを、どこまで続けられるだろうか。

取材・文●西森彰(フリーライター)

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