水野晃樹の脳裏に焼きつくオシムの卓見。“チルドレン”の矜持を胸に「カッコ悪くても、泥臭くても、死に物狂いで」やり切る覚悟

2023年07月21日 元川悦子

「今の自分にはまだ活躍できる場がある」

水野をプロ1年目から指導したオシム氏。「日本サッカーはチリ代表のようなスタイルが合っている」と先見の明。(C)SOCCER DIGEST

 J3のいわてグルージャ盛岡で、選手生活20年目を迎えた水野晃樹。ご存じの通り、彼のプロキャリアの一歩目がジェフユナイテッド市原(現・千葉)だ。

 そのチームを2003年から率いていたのが、元ユーゴスラビア代表監督のイビチャ・オシム。「考えながら走る」という価値観を植え付け、チームを躍進させた知将が、水野にとっての最初のプロ指揮官だった。

「プロ1年目がオシムさんで良かったというのは、今も強く思っていること。いろんな監督を経験していると比較してしまうところもあるだろうけど、僕は一切、そういうことがなかったから。真っ白なホワイトボードに新しいことが書き込まれていくのを覚えるのに必死だった。それで自分の選手としてのベースが築かれたというのは確かですよね」と水野は神妙な面持ちで言う。

 特に鮮明に記憶しているのが、「日本サッカーはチリ代表のようなスタイルが合っている」という話だという。

「オシムさんは当時、『チリ代表のサッカーが日本人のサッカーに合うと思う』という話をしていた。賢くやって、しっかり走って、どんどん人が湧き出てくるようなサッカー、それが日本人のスタイルに合っていると。無理に身体を張ったところで、外国人の強靭な身体には太刀打ちできないから、当たる前にボールをさばいて、当たらないところでボールを受けるっていうことを大事にしたほうがいいと。その話が僕はすごく脳裏に焼き付いています。

 実際、オシムさんが言っていたことが、今の欧州でも当たり前になっているし、日本サッカーも短期間で劇的に変わりましたよね。それだけ先のことを見据えていたんだと思う、その先見の目が凄かったですよね。

 そういう人に最初に教わって『オシムチルドレン』と言われたからには、もっと活躍したかったというのが本音です。だけど今の自分にはまだ活躍できる場がある。今のグルージャで苦しくても、カッコ悪くても、泥臭くても、もう何でもいいからホント、死に物狂いでやって、最後のサッカー人生を楽しみたいなと強く思っています」
 
 恩師がこの世を去って1年あまりが経過した今だからこそ、水野は指導を受けた日々に思いを馳せ、貴重な経験を活かそうと努力している。

 彼自身は新人の頃、自ら監督やコーチに意見や助言を求めたりするタイプではなかったが、そういった積極性が重要だと、今になるとよく分かる。これまで出会ったなかにそういうことを平気でやっていた強心臓の若武者がいたという。

「鳥栖時代に高卒新人で入ってきた鎌田(大地)でした。彼はプロ1年目の頃、当時の森下仁志監督に『何で自分を使わないのか』と直々に質問するくらいのメンタルの強さを持っていたと思いますね。自分はオシムさんに何かを聞きにいくといったことは全くなかったですから(苦笑)。

 もちろん技術もあったし、向上心も高くて、一つひとつのプレーに強いこだわりもありましたね。よく最後まで居残り練習もやりましたけど、努力している感じに見られないのが鎌田大地(笑)。あの飄々としたところが魅力なんです。

 今はまだ次の移籍先が決まっていないけど、彼がどこまで行けるかは日本サッカー界の今後を大きく左右すると思います。あれだけ滑らかなボールタッチができて、トップ下からボランチもできるっていうのは貴重な戦力。面白い選手なんで注目しています」

【画像】セルジオ越後、小野伸二、大久保嘉人、中村憲剛ら28名が厳選した「J歴代ベスト11」を一挙公開!

次ページ経験者がもたらす「勝者のメンタリティ」

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事