【高校サッカー選手権│東福岡・日本一の“真実”】すべての赤い彗星が輝いた

2016年01月12日 塚越 始(サッカーダイジェスト)

『博多の男なら気持ちをみせろ』の“國學院久我山バージョン”の演奏に、東福岡のジャージを着た選手たちは野太い声で対抗して――。

チームを牽引してきた東福岡のキャプテン・中村。ヒーローインタビューでは、部員一丸となっての勝利を強調した。写真:田中研治

「森重監督を見返してやろう!」
 
 それが中村健人ら東福岡の3年生の合言葉だった。
 
 怒られてばかりだったという。夏のインターハイで優勝し、クラブチームを含むユース世代の最高峰であるプレミアリーグWESTでは2位。しかし、そのプレミアリーグWESTでは優勝したC大阪U-18に開幕戦で6失点を喫するなど、シーズンのスタートは不安の募るものだった。
 
 インターハイ連覇を達成しても、選手たちは常に危機感を抱いていた。「夏の王者」が「冬の王者」になるために、とことん自分たちと向き合い、地味な作業である守備の対策と練習、徹底して負荷を掛ける体力アップに時間を費やした。
 
「辛い想いもたくさんしてきた。きつかった、というのが本音。自分たちで言うのも変ですけど、けっこう頑張ってきたという自負はあります」
 
 背番号7をつけた毎熊晟也は、肩の荷を降ろすように言った。
 
 選手権の決勝・国学院久我山戦は、そんな彼らの集大成と言えるパフォーマンスが披露された。
 
 東福岡が「赤い彗星」と呼ばれる証を示す流麗なパスワークから敵陣を貫いた先制点、日本中を"騙した"トリッキーなセットプレーからの2点目、カウンターによる3点目、サイドを切り裂いた4点目、勝負強さを見せつけた5点目……特長が凝縮されていた。
 
 ただ、意外と言うべきか、優勝が決まった瞬間、ピッチ上の東福岡の選手たちは喜びを爆発させるどころか、多くが静かに握手や抱擁をかわしていた。優勝できたという安堵のほうが大きかったようだ。
 
 そして2得点・1アシストを記録した主将の中村健人は、ヒーローインタビューで開口一番言った。
 
「辛い時、良い試合も、悪い試合も、いつも応援して支えてくれたみんなのためにも勝利する必要があった。前はAチームにいて、今は絡めていない選手もいる。みんなで刺激し合って成長できた」
 
 決勝戦のスタンドで、心に残る光景があった。
 
 前半の試合が動き出した時間帯だった。國學院久我山の応援席からは、彼らのレパートリーのひとつであるアビスパ福岡の応援歌『博多の男なら気持ちをみせろ』の"久我山アレンジバージョン"の演奏が始まった。試合を重ねるごとに洗練されてきた、完成形と言って過言ではない息の合ったアンサンブルを埼スタに響かせた。
 
 その直後だった。この演奏に対抗して東福岡の応援席から、今度は赤いジャージを着た選手たちの野太く猛々しい声で、『博多の男なら気持ちをみせろ』の合唱が始まった。生徒の人数は國學院久我山よりもひと回り少ないが、こっちが本家だと言わんばかりの気合の入りようだった。エール交換とも言えた一方、そんなところにも東福岡の負けん気が感じられた。
 
 また、表彰式で勝利の拳を突き上げた東福岡の選手のなか、人目をはばからず大泣きしていたのがマネージャーの3年生、福里歩だった。
 

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