「プロでは通用しない」フランス2部でお払い箱→スペイン代表入り。失敗と向き合って成長したソシエダDF

2023年07月01日 小宮良之

「入団させることを疑問視する声もあった」

久保の所属するソシエダで活躍するル・ノルマン。(C)Getty Images

「失敗にどう向き合うか」

 それはサッカーだけでなく、人生で成功するために大事なことかもしれない。「失敗は成功の基」ということわざが世間に流布されているのは、それだけの理由があるのだろう。成功し続けることができる人生も、戦いもない。もしあったとしたら、それはファンタジーだ。

 失敗した時、選手の本性が出るわけだが、とりわけディフェンスの選手はこれが顕著である。

「失敗もせずに、トッププレーヤーになると思うな」

 スペインの指導者はしばしばそう言って戒める。

 ディフェンスというポジションは、常に相手の攻撃に晒される。その中で、プレーをコントロールしなければならない。かなりの集中力、決断力が求められる。それは日ごろからの鍛錬で高めるべきものだが、個人での鍛錬には限界がある。能力の高いアタッカーと対峙することによって鍛えられる。当然、打ちひしがれることもあるだろう。それでも諦めずに食らいつくことで、自分の正解を見つけられるのだ。

 そのトライ&エラーを繰り返せる向上心と辛抱強さのあるディフェンダーだけが、最後に残る。

 久保建英が所属するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のフランス人センターバック、ロビン・ル・ノルマンは典型と言えるだろう。

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 ル・ノルマンはラ・レアルの中心選手の一人で、(国籍を取得した)スペイン代表入りも果たしているが、19歳の時には「契約満了」を突き付けられていた。フランスリーグ2部のトップチームでわずか1試合出場、5部のセカンドチームが主戦場でお払い箱同然だった。体格や運動神経は悪くなかったが、単純に技術レベルが低く、戦術的も未熟で「プロでは通用しない」と言われていた。

 フリーでラ・レアル入団が決まった。しかしクラブ内部でもフランスで通用しない選手を入団させることを疑問視する声もあったという。無名だったアントワーヌ・グリーズマンと契約した凄腕スカウトの推しがなかったら、契約は成立しなかっただろう。

 ル・ノルマンは愚直だった。3シーズン、じっくりとセカンドチームで試合に出た。華やかな舞台を羨まず、目の前の試合に打ち込んだ。もちろん、最初は苦労した。ビルドアップを求められたが、技術的な問題でなかなかうまくいかなかった。しかし挑戦から逃げなかったという。

「彼は練習でも、試合でもすべてを出し切れる。それが彼の才能だ」

 ラ・レアルの首脳陣が語っていたことがあった。

 ル・ノルマンはラ・リーガのトップレベルのアタッカーと対峙するようになって、打ち負かされることもあった。しかし、そのたび彼は腕を上げた。誰よりも遅くまでジムワークを欠かず、監督と試合ビデオを見て、戦術を学ぶのは日課。トライ&エラーで、ディフェンダーとして少しずつ成熟した。右利きながら、左センターバックもできるようになった。試合に出るたび、その価値を増した。

 ル・ノルマンは失敗と、あるいは自分と、正面から向き合えたのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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