【Jリーグ】トライアウトで垣間見えた"ベテランの価値と矜持"

2015年12月12日 海江田哲朗

プロで長くメシを食ってきた選手は、自分の見せ方を知っている。

参加者で最年長だった斉藤(45番)は、契約満了を告げられた直後にトライアウトの申し込み用紙を手に取ったという。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 12月8日から2日間、JPFA(日本プロサッカー選手会)トライアウトが、フクダ電子アリーナで開催された。所属クラブを契約満了となった選手に移籍の機会を創出すべく、02年からスタートした試みだ。

 参加選手は2日間合わせて90名。最年長はMF斉藤大介(徳島)の35歳3か月8日、最年少はFW山本祥輝(富山)の21歳21日である。7対7のミニゲーム、11対11の試合(30分)を行ない、国内外のチーム関係者が選手たちのプレーに目を光らせた。

 視察に訪れた監督や強化担当の思惑はそれぞれだ。
「主な目的は左SBの補強ですね。良い選手がおらんかなと思って来ましたよ」(讃岐・北野誠監督)
「若手のGKがひとり欲しい」(東京V・竹本一彦ゼネラルマネジャー)
「最重要の補強ポイントはボランチかな。条件は戦える選手であること。可能であれば経験のある選手もひとり獲得したい」(鳥取・岡野雅行ゼネラルマネジャー)

 といった具体的なものから、来季からJFLに昇格する浦安の都並敏史テクニカルディレクターは「カテゴリーが上がり、チームをひと回り大きくしなければいけない。浦安のスタイルに合致し、かつ献身的にプレーできる選手を求めています。地域との関係性を深めつつあるクラブですので人間性も重視です」と比較的手広く構えていた。

 選手の移籍をサポートするエージェントの糀正勝は言う。
「クラブ側の見る目はなかなかシビアですね。経営に余裕のあるクラブはそう多くないですから。J3まで拡大し、受け皿が広がった一方、選手の待遇の格差は広がっているとも言えます」

 そうした状況を踏まえ、近頃は海外に活路を求める選手が増えてきた。新潟や水戸でプレーし、アンダーカテゴリーの代表経験もある木暮郁哉は昨年のトライアウトを経て、アルビレックス新潟シンガポールに移籍。リーグMVPを獲得する大活躍で、ステップアップとなる移籍が確実視されている。

 木暮を獲得した新潟Sのチェアマンを務める是永大輔はこう語る。
「うちで活躍できれば、他クラブからさらに好条件のオファーが届く。アジアに広く日本人選手を送り出すのが私たちの役割です。速い、強い、抜群に巧いなど、わかり易い特長を持った選手のほうが有利ですね。提示する条件についても、生活環境などを考慮すればそう悪いものではないはずですよ」

 なお、新潟Sは12月18日(大阪)、20日(新潟)、21日(東京)でセレクションを実施する。詳細はオフィシャルサイトまで。

 トライアウトの場でつくづく感じるのは、プロで長くメシを食ってきたベテランが放つ存在感である。彼らは限られた時間で自分の見せ方を知っている。評価されるプレーの肝を心得ている。もちろん弱点はあるのだが、要所でプレーの強度を高めるなど緩急のつけ方が絶妙で、それを感じさせない。

 参加選手のなかで最年長の斉藤は、次のようにトライアウトを振り返った。
「トライアウトの参加は即決です。強化担当の方から来季の契約はないと告げられたその場で申し込み用紙をお願いし、すぐに提出しました。なによりも自分から行動を起こすことが大事。後で出ればよかったと後悔したくないですからね。自分を必要としてくれるなら国内外を問いません。現役を続ける道を簡単にはあきらめたくない」

次ページ松本の躍進を支えたヒーロー。塩沢が見せたトライアウト後の振る舞い。

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