チェルシーに完勝した王者マドリーの強さ。戦術に縛られないが故に個人が“最適解”を生み出せる【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2023年04月20日 小宮良之

ピッチにおいて選手がストレスを感じていない

チェルシーを破り、3シーズン連続で準決勝に進んだR・マドリー。(C)Getty Images

 欧州王者であるレアル・マドリーは、改めて地力の強さを示した。チャンピオンズリーグ(CL)、準々決勝でチェルシーと対決し、ホーム&アウエーどちらも2-0と完勝。準決勝進出を決め、連覇に向けてまっしぐらだ。

 チェルシー戦は、ファーストレグで決着はついていた。要所に配した人材が局面を圧倒。相手をなぎ倒した、前線のカリム・ベンゼマ、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴの3人が近い距離で連係すると、5-3-2で守備を固めたチェルシーを翻弄。単なる人海戦術では止められない。

 単純なワンツーでシュートまで持ち込めるのは、「個」で勝っているからで、特にヴィニシウスのドリブルは単騎でも十分に脅威だった。相手を押し込むと、セカンドボールをフェデリコ・バルベルデ、ルカ・モドリッチ、トニ・クロースが回収。波状攻撃となる回路が仕組まれている。

 21分、先制の場面ではセカンドの応酬の中、敵陣で再攻撃を仕掛けると、右サイドバックのダニ・カルバハルがするすると中央のスペースに入り、クロースから横パスを受け、裏に走ったヴィニシウスに合わせる。どうにか足を延ばしたシュートはGKにストップされたが、こぼれをベンゼマが押し込んだ。

 もっとも、重厚感のあるチームも隙がないわけではない。

 しかし与えた決定機には、守護神ティボー・クルトワが立ちはだかった。実は何度かピンチはあった。しかし神がかった集中力で、すべて防いでいるのだ。
 
 カルロ・アンチェロッティ監督が率いるマドリーは、戦術的にはそこまで鍛錬されているわけではない。ジョゼップ・グアルディオラのマンチェスター・シティ、ユルゲン・クロップ監督のリバプールとは異なるタイプだろう。しかし戦術に縛られていないことで、個人がそれぞれの判断で撓むようにしなやかに戦いを変化させ、流れの中で最適解を生み出せる組織になっている。

 例えばセカンドレグ、チェルシーはカンテを前線において前線からの守備で挑んできた。しかし、マドリーは少しもたじろがなかった。相手次第で受け流せるというのか。たとえ攻められたとしても退いて守ることにも適応できるのだ。

 昨シーズン、CL決勝のリバプール戦などは典型と言えるだろう。ピッチにおいて、選手がストレスを感じていない。それはベンゼマ、ヴィニシウス、モドリッチ、クルトワという各ポジションでワールドクラスの選手がいることもあるが、最強クラブの伝統もあるか。
 
 ピッチの状況次第で撓み、順次、適応できる戦いは、王者の証と言えるだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。


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