現地紙コラムニストが綴る――武藤嘉紀のブンデス挑戦記「マッリ、そして武藤が…。マインツの人々が抱く“怖れ”」

2015年12月10日 ラインハルト・レーベルク

グラスが半分満たされているのではなく、半分空。

欧州カップ戦出場圏内に迫っている現状を、マインツの人々は懐疑的に見ている。 (C) Getty Images

 よく日本へ出張する私の友人によると、多くの日本人は武藤嘉紀のブンデスリーガでの活躍に少し驚いているという。

 一方で、マインツというクラブにおいては何をもって「成功」とみなされるか理解するのが難しいらしい。遠く離れた日本で暮らしているのだから、わからなくて当然だろう。なにせ、本国ドイツの人々にとっても同様で、クリスティアン・ハイデルSD(スポーツディレクター)は、マインツの資金力で何ができて何ができないのかを繰り返し説明しなければならないほどだ。

 15節を終えて、勝点23の7位。この成績はマインツにとって大きな成功である。

 しかし、典型的なマインツの人間は、愚痴っぽく、物事を懐疑的に見る。「グラスは常に半分満たされているのではなく、半分空」という考え方である。

 自動降格となる17位と勝点12、昇格/降格プレーオフに回る16位には10ポイントの差をつけている。これだけのリードがあれば、いくら悲観的な思考の持ち主でも安心すると思うだろう。そもそもマインツは、09-10シーズンの1部再昇格以来、一度も降格圏に足を踏み入れていない。

 しかしこの街には、「この贅沢な世界は明日にも終わってしまうかもしれない」という"怖れ"が常につきまとっているのだ。

 こうしたネガティブな考え方は、視線を上に向けても変わらない。現時点でEL出場権を得られる6位との勝点差はたったの1、CL出場圏内の4位には3ポイント差と、欧州カップ戦が視野に入る順位にいながら、「いまは好位置につけているけど、シーズンはまだまだ長い。CLなんて俺たちには関係ないよ」と思っているのである。 

次ページ成功の後に待ち受ける良質なサッカーとの別れ。

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