J3沼津の指揮官・中山雅史が直面する高い壁「口で言ってもなかなか伝わらない」課題の得点力をいかに高めるか

2023年04月09日 元川悦子

「ゴンさんはゴール前の落ち着きとか細かく教えてくれます」

沼津を率いる中山監督。細部にこだわる指導で得点力向上を目ざす。(C)J.LEAGUE

 2002年の日韓ワールドカップ(W杯)で一世を風靡したSC相模原の戸田和幸監督、96年のアトランタ五輪日本代表FWのいわてグルージャ盛岡の松原良香監督など、ビッグネームの指揮官が相次いで参戦している2023年J3リーグ。

 その筆頭と言えるのが、アスルクラロ沼津の中山雅史監督だ。

 2015~20年まで選手として在籍したクラブで、Jリーグ指揮官デビューを果たしたかつての名FWがどんなチームを作るのか。それは大きな関心事の1つと言っていいだろう。

 その沼津だが、J3の最高順位は参入初年度の2017年の3位。2018年も4位でフィニッシュしたが、2019年以降は上位進出が叶わず、昨季も15位にとどまっている。

 新指揮官は就任会見で「目の前の試合に集中し、勝つことが目標。観客がもう1回見に行きたいと思えるプレーを続け、その結果として優勝がある」と語り、1つでも上の順位を目ざす構えを見せていた。

 しかしながら、今季はここまで苦戦が続いているのが実情だ。3月5日の開幕・カマタマーレ讃岐戦は0-1と黒星発進した後、同12日のカターレ富山戦で初勝利。勢いに乗るかと思われたが、続くヴァンラーレ八戸戦で敗戦。その後のいわて、相模原に引き分け、5試合終了時点で勝点6の15位に沈んでいたのだ。

 特に課題と言えるのが、得点力。第5節時点での総得点3というのは、ワーストのテゲバジャーロ宮崎の「2」に続く少なさ。98年フランス大会でW杯日本人最初のスコアラーとなった中山監督が率いる集団が、この状況というのはやはり物足りない。

 日本代表やジュビロ磐田時代の盟友・服部年宏監督率いる福島ユナイテッドとの8日のゲーム(6節)では、何としても現状打開の糸口を掴みたかったはずだ。
 
 4-1-2-3をベースに、左インサイドハーフの持井響太が2トップ気味に位置したり、左SBの濱託巳がインサイドから前線へ侵入するなど、流動的な攻撃を見せた沼津。序盤からボールを支配し、最前線のブラウン・ノア・賢信、左FW津久井匠海らが決定機を迎えるなど、優位に試合を進めたかに見えた。

「沼津さんは非常にテンポよく回してくるという情報があった。持たれるのは想定内だったので、流動的な選手をどう捕まえるのかを整理させた。意図的に奪えていたシーンもあった」と服部監督が言うように、相手は沼津の出方を理解したうえで「持たせるサッカー」を選択していたという。そんな事情もあり、前半はスコアレスで折り返した。

 迎えた後半。沼津は攻撃のギアを上げ、55分にはビッグチャンスを迎える。相手のリスタートからの横パスを津久井が中央でインターセプト。完全フリーでシュートを放ったのだ。これは誰もが決まったと思う絶好のシーンだったが、ボールはまさかの枠の外。本人も倒れ込んで悔しがった。

「その前から相手のリスタートは狙っていて、切り替えもインテンシティも高かったと思うんですけど、最後に決めきるところが本当に足りない。今、思い出しても悔しい」と津久井は試合後に荒々しい感情を吐露した。中山監督から直々に指導を受けている分、課題を克服しなければいけないという思いは人一倍強いようだ。

「全体練習後にFW陣5~6人でシュート練習をやっているんですけど、ゴンさんはゴール前の落ち着きとか、ファーストタッチの位置、ゴールへの道筋や形などを細かく教えてくれます。あれだけ結果を残してきた人の指導は本当にためになる。自分が点を取れるようになると信じて取り組んでます」と津久井は神妙な面持ちで言う。中山監督も「練習では入るんですよね……」と苦笑していた。
 

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