連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】5年ぶりJ1復帰の福岡 「サポーターの重低音」と「井原カラー」の勝利

2015年12月07日 熊崎敬

野太い雄叫びが昇格を後押し。

87分のゴールで追いつき、福岡は5年ぶりのJ1昇格を果たした。 (C) SOCCER DIGEST

 J2にくすぶっていた福岡が、5年ぶりにJ1昇格を決めた。
 
 J1切符獲得につながる中村北斗の「決勝同点弾」は、87分という際どい時間帯に生まれた。
 坂田、金森、亀川とつながる強烈なサイドアタックから中村が豪快なシュートを決めると、選手たちは狂ったような勢いでサポーターが待つゴール裏に殺到する。この一連の流れには鳥肌が立った。
 
 私は福岡が接戦を制した要因のひとつに、サポーターの後押しがあったと考えている。
 
 試合前から両軍サポーターは激しい応援合戦を繰り広げたが、福岡サポーターの野太い雄叫びに私は圧倒された。腹に響くような重低音は、Jリーグではなかなか耳にできないものだった。
 
 福岡はC大阪に勝点15の大差をつけながら、敵地・長居で大一番を戦う羽目になった。当初は不運に思えたが、この応援風景を見て「アウェーもそう悪いものじゃないぞ」と思い直した。
 
 福岡側のゴール裏には、驚くほど多くのサポーターが詰めかけていた。そして、恐ろしい勢いで叫び続けていた。それを目の当たりにした私は、「この人たちを手ぶらで福岡に帰すのは忍びない」と思った。
 
 福岡に縁もゆかりもない私が、そう思ったのだ。選手たちは「この人たちを悲しませちゃいけない」、「一緒に喜びを分かち合いたい」と思ったに違いない。
 そう、福岡は文字通りチームとサポーターがひとつになって、この引き分けをつかんだのだ。
 
 それにしても前年16位のチームを、就任1年目の井原監督が昇格させるとはまったく予想できなかった。
 
 2009年、私は柏レイソルで代行監督を務めたときの彼の采配を見たが、正直なところ監督には向いていないと思った。交代のタイミングが遅く、会見での言葉も明瞭さや説得力を欠いていたからだ。だが井原監督は、指導者としての力量を証明した。私は自分の認識が間違っていたことを素直に認めるしかない。
 
 試合後の記者会見で、現役時代との違いや選手を動かすことの難しさについて尋ねると、井原監督はこう答えた。
 
「現役時代の実績は、監督としての仕事にはまったく関係ないと思っています。選手と監督では感じるプレッシャーは全然違う。井原は現役時代の実績があるから、いい仕事をするだろう、と見られるのはプレッシャーですが、そうしたプレッシャーがあるからいい仕事ができるのだと考えています」
 
 いまも昔もプレッシャーから逃げず、真摯に仕事に取り組んでいる姿勢が、この言葉から窺える。
 
 シーズンを通じての成長について尋ねられると、ちょっと面白いことを話していた。
 
「主導権を握れないゲームでも試合をコントロールし、少ないチャンスでもゴールを奪う勝負強さやたくましさが身についたと思う」
 
 実直な井原監督は、あまり面白いことを口にしない。だが、このありきたりな言葉の中に、福岡の強さの秘密が隠されている。
 

次ページ勝利に直結する試合運びを浸透させた井原監督。

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