『The Class of 92』という映画をあなたはご存知だろうか？
 
　2013年12月に公開されたこの映画は92年にユースチームからマンチェスター・ユナイテッドのトップチームに加わったガリーとフィルのネビル兄弟、ニッキー・バット、ライアン・ギグス、ポール・スコールズ、デイビッド・ベッカムの６人の若手選手に迫ったドキュメンタリー作品だ。
 
　彼らがプレーしてきたオールド・トラフォードからほど近いところに構えるクラブがある。それは７部に在籍するサルフォード・シティだ。
 
　プレミアリーグよりも７つも下のノーザン・プレミアリーグのディビジョン１に所属するサルフォードの選手たちに支払われる給料は、ユナイテッドの選手たちに比べれば微々たるものに過ぎない。そのためほとんどの選手が生活をするために別の仕事に就き、なんとか収入を得ている。
 
　そんななんの変哲もないノンリーグのクラブが、実はイングランドで話題となっている。
 
　というのも、先ほど紹介した６人の92年ユナイテッド・トップチーム加入組のうちベッカムを除いた５人（ネビル兄弟、バット、ギグス、スコールズ）が、昨年３月にサルフォードを買収したからである。その影響で注目度は一気に高まり、今シーズンの11月７日に行なわれたFAカップ１回戦（○２-０ノッツ・カウンティ）の様子は、BBCによって全国放送された。
 
　さらに驚くべきことにその試合は、プレミアリーグ５節のマンチェスター・U対リバプールの視聴者数90万人を上回る、350万人が視聴し、今シーズン最高の視聴率を叩きだしたのだ。
 
　あくまでBBCでの視聴率であり、プレミアリーグを主に放送しているSKYスポーツなどのチャンネルで放送した場合においても同じ数の人々が、あの試合を見たかは分からない。
 
　しかし、サルフォードの人気沸騰にユナイテッドのレジェンドたちが関係していると知れば、私を含めてイングランド人たちはどんなフットボールでも見るはずだ。
 
　サルフォードの試合で高視聴率を獲得したBBCは、12月４日（日本時間：５日）のFAカップ２回戦のハートルプールの放送を迷わず決定した。
 
　彼らの試合にはクラブの責任者として、現在ユナイテッドでアシスタントコーチを務めるライアン・ギグスを除いて、スコールズなどが、足しげく試合観戦に訪れている。
 
　ユナイテッドを愛する人々のアイデンティティーはミートパイやえんどう豆のグレービースープ。さらにストリートミュージックやザ・スミス、ストーン・ローゼズなどのイカしたロックバンドだ。
 
　先週、BBCがサルフォードのオーナーとなったユナイテッドのレジェンドたちの取り組みを２部構成のドキュメンタリー番組として放送した。
 
『団結する92年組』というタイトルが名づけられた番組は、その時代を知るはずのない私の息子も見たがったほどだ。人々にノンリーグについて興味を持たせるには十分過ぎる内容で、新たな関心が沸いたほどだ。
 
　92年組のレジェンドたちをオーナーに持ち、全国的に話題を呼んでいるサルフォード・シティはいずれユナイテッドを愛する人々のアイデンティティーのひとつとなるのかもしれない。
 
では、また次回のコラムでお会いしよう。
 
（※ドキュメンタリーの模様は下記リンクから）

文：スティーブ・マッケンジー