なぜバイエルンはパリSGとの大一番で世界最高峰SBを先発させなかったのか。“エムバペ封じ”を完遂させた指揮官の思惑【現地発】

2023年03月19日 中野吉之伴

パバールが累積警告で出場停止

エムバペ(左)封じに一役買ったのが先発に抜擢されたスタニシッチ(右)だ。(C)Getty Images

 チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦のセカンドレグ、パリ・サンジェルマンをホームのアリアンツ・アレーナに迎えたバイエルンのスタメンに、ポルトガル代表SBジョアン・カンセロの名前がなかった。

 マンチェスター・シティからレンタル移籍で加入したカンセロは、バイエルンにとって悩みの種だったSBからの攻撃、特に右サイドからの攻撃バリエーションアップにポジティブな要素をもたらすと期待されていたはずだ。

 世界最高峰のSBとまで評された選手を補強しながら、大事な試合で起用しないというのはメディアにとって格好のネタだ。それだけに試合前には「なぜカンセロを使わない?」というテイストの記事が多くみられていた。良くある話といえる。

 だが、選手の普段の様子を一番見ているのは監督だ。トレーニングでのパフォーマンス、メンタル状態、チーム内でのコミュニケーション。それらをつぶさに観察している。だから自分が確信を持った選手をピッチに送りたい。そしてそのための基準は明確でなければならない。それこそが信頼関係だ。
 
 ユリアン・ナーゲルスマン監督はクロアチア代表ヨシプ・スタニシッチを抜擢した。今季前半戦17試合で6試合に出場し、スタメンは0。後期に入って18節フランクフルト戦で初スタメンを飾ったがその翌節はベンチにスタートとなり、19、20節では2試合続けて出場がなかった。

 パリ戦ではフランス代表DFベンジャミン・パバールが累積警告で出場停止なため、その代役として白羽の矢が立ったわけだが、ここ最近のバイエルンは3バック+右サイドにフランス代表キンスリー・コマン、左サイドにカナダ代表アルフォンソ・デイビスが基本形となっている。特に右CBにはCBとSBのタスクを同時に担う必要があるためにパバールが重用されていたわけで、その代役となるとカンセロよりもスタニシッチのほうが適任となる。またナーゲルスマンは直近でのトレーニングにおけるハイパフォーマンスをとても高く評価していた。

 実際、この試合ではファーストレグでは途中出場から何度も危険な突破を繰り返していたフランス代表のキリアン・エムバペを相手にスタニシッチが好対応。フランス代表ダヨ・ウパメカノとサポートし合いながら、エムバペが突破してくるスペースを徹底的に消していった。

 秀逸だと思わせたのが、その守備時のポジショニングだ。常に右サイドのスペースに立つのではなく、相手の立ち位置に応じて最適なポジショニングを取っていた。例えばウパメカノがエムバペをマークしているときはその右隣りではなく、エンバペへのパスコースを切りながら、相手の中盤選手にもケアにいける絶妙な位置で待機。数的優位が意味を持つ配置作りができていた。

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