起死回生の一撃だった。
 
　１点リードを許したまま刻々と時間が過ぎていく。残り20分を切る。ペナルティエリア内で関根が背中を押されて「PK獲得か」と思われたが、主審の判定は"ノーファウル"。浦和のベンチからはペトロヴィッチ監督をはじめスタッフ陣が飛び出して猛抗議をする。とはいえ、もちろん判定が覆ることはない。
 
　それでも浦和の攻勢が続いた。
 
　その関根の突破から得たCK。柏木のキックに森脇が完璧なタイミングでヘッドに合わせるが、クロスバーを直撃する。またダメか……というため息が一瞬スタンドからこぼれる。
 
　ボールはペナルティエリア内に密集する選手たちの上空に舞い上がる。
 
　しかし、ここで諦めていなかったのがズラタンだ。
 
　背番号21はG大阪の３人のマーカーに、高さと強さで圧倒。パトリックに頭ひとつ以上上回って競り勝ち、ヘディングシュートを放つ。多くの人の想いが込められたボールが、ゆっくりとゴールネットを揺らす。

　待望の同点ゴールが決まった。
 
　今季第１ステージのホームの一戦では決勝ゴール、そして第ステージのアウェーの一戦では１-２で敗れたものの後半ロスタイムに意地の一撃を叩き込んでいた。これで今季３戦３発という"ガンバキラー"ぶりを見せ付けた。
 
　このゴールにより浦和が流れを掴んだ、はずだった。しかし、武藤の試合終了間際のヘッドは再びポストを叩くなど、決め切れない……。そして延長後半、２失点を喫して敗れた。
 
　ズラタンは無念そうに言った。
 
「残念な結果に終わってしまった。個人的としても、チームとしても、たくさんのチャンスを作れたけれど、アンラッキーだった。何回バーを叩いたか覚えていないぐらいだ」
 
　そして、しばらくは気持ちを切り替えるのは難しいものの、ベスト８に進出している天皇杯制覇を目指すことを誓った。
 
「これから数日は……、この難しい状況から抜け出すのに時間が掛かると思う」