イングランドでもっとも愛された外国人選手のひとり。監督としても独特の感性を発揮したルカ、安らかに――【英国人記者コラム】

2023年02月28日 スティーブ・マッケンジー

華麗に、泥臭くゴールを奪う

茶目っ気があり、いたずら好きで、偉ぶらない素朴な人柄が魅力だったヴィアッリは、イングランドのファンの心を鷲掴みに。(C)Getty Images

 記憶に残っているのは、サンプドリアでの勇姿だ。
 
 当時はセリエAが熱かった。ちょうどイングランドでもテレビ中継が始まり、若い世代を中心にジワジワと人気が広がっていた。
 
 サンプドリアが好きだったのは、アンチ・カテナッチョとも言うべき攻撃志向で、ユベントス、ACミラン、インテル・ミラノといった老舗のビッグクラブに立ち向かっていたからだ。あの頃のイタリアはカテナッチョ全盛の時代で、サンプドリアはエスタブリッシュメントに反旗を翻す異端児のようで眩しかった。
 
 1990-91シーズンについにセリエAを制したサンプドリアは、翌シーズンはチャンピオンズカップで快進撃を演じて決勝に勝ち上がった。ウェンブリーが舞台となったそのファイナルの対戦相手はバルセロナ。当時のバルサと言えば、ヨハン・クライフが率いる「ドリームチーム」で、サンプドリアに勝ち目はないように思われた。
 
 でも、だからこそ、彼らに肩入れした。ダビデとゴリアテの物語ではないが、強大な敵に挑むアンダードックにはやはり心を強く揺さぶられるものだ。0-0のまま延長戦に突入とサンプドリアは互角に渡り合った。しかし、最後はロナルド・クーマンの強烈なFK一発に沈んだ。
 
 そんなサンプドリアを、ロベルト・マンチーニとともに牽引していたのが、ジャンルカ・ヴィアッリだった。天才的な閃きで違いを作り出すマンチーニと、華麗に、泥臭くゴールを奪うヴィアッリは、最高にクールな2トップだった。
 
 そのヴィアッリが亡くなった。訃報が伝えられたのは2023年が明けてすぐの1月6日。58歳だった。
 
 サンプドリアからユベントスを経てチェルシーでプレーしたヴィアッリは、イングランドでもっとも愛された外国人選手のひとりだ。実際、敵味方の関係なく誰からも好かれた稀有な存在だった。茶目っ気があり、いたずら好きで、偉ぶらない素朴な人柄が、イングランドのファンの心を鷲掴みにした理由だろう。
 

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