判断に迷った時に判で押したように彼にボールを預けていた
敗れたバジャドリー戦でマン・オブ・ザ・マッチに選出された久保。(C)Mutsu FOTOGRAFIA
難しい局面でも冷静にボールを捌き、チームを落ち着かせた。ボールを保持すれば、右サイドに陣取るプリエトに展開することが当時のソシエダの基本戦術だった。つまり冒頭の合言葉とは「プリエトにボールを集めろ」だ。
0-1と敗れたバジャドリー戦で、プリエトと同じ感覚に陥らせた選手がいた。タケ・クボ(久保建英)だ。チームメイトは判断に迷った時に判で押したように彼にボールを預けていた。
ソシエダは今、トップチーム登録者数25人中15人が大なり小なりコンディションに問題を抱えている。そんな野戦病院と化したチームにおいて、タケは違いを生み出す存在になっている。チームメイトから主役と認められた所以だ。
責任を背負わされると足がすくんでしまう選手もいるが、タケはその対極に位置する。責任が大きければ大きいほど意気に感じ、このチームのピンチを逆にチャンスに捉えている。バジャドリー戦も、「今こそ自分の出番だ。世界のトッププレーヤーになるための一歩を踏み出す時が訪れた」という強い意気込みが伝わってくるプレーだった。
ポジションは4-3-3の右ウイング。しかしそれはあくまでスタート地点で、立ち上がりから電光石火のドリブルを武器に頻繁に中央に顔を出した。逆サイドでファーストチャンスを得たのもそうした神出鬼没な動きが実った結果だった。
一旦右サイドで起点を作った後、ペナルティエリア内に侵入。左足を振り抜いたが、シュートはゴール右に外れた。ヒヤリとさせられたのは31分のシーンだ。ルーカス・オラサに足を踏まれ、ファンの心の悲鳴が聞こえてくるようだった。これ以上の怪我人はごめんである。
ハーフタイムを挟んだ後半、ソシエダは押し気味に試合を進めた。攻撃を牽引し続けたのはやはりタケだ。ポジションにとらわれずに極悪非道な人形ように動き回り、そのプレーは悪魔的ですらあった。
しかし肝心のフィニッシュの局面でまたしても立ちはだかったのはバジャドリーの守護神、ジョルディ・マシップだ。64分、ブライス・メンデスとのパス交換からボックス手前まで切り込みミドルシュートを狙うが、そのセーブに遭い、その直後にもアシエル・イジャラメンディとのワンツーから再び左足で相手ゴールを強襲。しかしシュートは少しコースが甘く、マシップにキャッチされた。
結局、ロスタイムで迎えたチャンスも大きく枠を外したが、最後の一滴までエネルギーを使い果たすプレーは改めてファンの胸を打ち、スタジアムに大きな歓声が沸き上がった。チームの合言葉は、最初から「タケにボールを集めろ」であることは誰の目にも明らかだった。
取材・文●ミケル・レカルデ(ノティシアス・デ・ギプスコア)
翻訳●下村正幸
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