人に寄り添える社会人になりたい。目標を見失い、31歳で現役を引退した磯村亮太が描く人生設計

2023年01月23日 今井雄一朗

「でもやれないから、引退するんですよ(笑)」

昨季限りでスパイクを脱いだ磯村。今はセカンドキャリアを支援するような業種への興味を強めている。写真:今井雄一朗

 アスリートの現役引退には様々な理由があるが、「まだやれるのに」と惜しまれての引退ができる選手はそれほど多いわけではない。

 2022年シーズンいっぱいで栃木を契約満了となり、年末に現役引退を発表した磯村亮太も、31歳という比較的若い年齢もあって周囲には驚かれたという。

「同い年の田口泰士(千葉)とかにも『びっくりした!』って連絡をもらいましたよ。まだやれるだろうって言われることは多いですね。でもやれないから、引退するんですよ(笑)。ここ数年はずっと、今年で辞めようかなって考えてはいたんです」

 ここ2年ほどはアキレス腱痛を抱えてのプレーに苦しんできたこともあったが、現役を続けることへのモチベーションが曖昧になってしまったことのほうが、決断としては大きかったという。

 名古屋の育成組織からプロに昇格し、厳しい若手時代を経て2011年にはリーグ戦3試合連続ゴールなどの活躍から躍進のきっかけを掴んだ。正確な技術とボランチとしての献身性はその後の指揮官たちにもソリッドな選手として重宝され、クラブ初の降格を味わった2016年の終盤戦でも主力として身を削った。

 17年からの風間八宏監督体制でもセンターバックとして重用されてきたが、ほんの少しの掛け違いもあってシーズン途中にJ1で残留争いの最中にあった新潟へ移籍。その1年後にはJ1昇格を狙う長崎でプレーするなど、近年は常に厳しく熾烈な戦いの中に身を置き、また求められる選手としてのキャリアを重ねていた。

 実のところ、その戦いの激しさこそが磯村にとってのプロとしてのモチベーションをかき立てられるものだったというのが、彼自身が感じる引退のトリガーである。

「目標があってサッカーを続けてきたところ、それを見つけられなくなってしまったんです」
 
 誤解なきよう付け加えおくと、栃木での戦いにはベテランとしての充実も感じられていたという。だが、J1やJ2で上を見て闘ってきた日々とのギャップに、「続ける意味はあるのか」と思ってしまったがゆえに、彼の心はセカンドキャリアへと傾いてもいった。

「昔から、あまり現役を長く続けること自体には興味はなかったんですよ。今はまず、サッカー界から一度離れようと思っています。僕はまだサッカー界しか知らないから、それってどうなのかなってずっと思ってたんですね。

 たとえば、長崎の時に用具係の人数がすごく増えたことがあったんです。そして毎日、1人は絶対に休みになっているようなローテーションになった。最初はみんな『何それ』みたいな反応でしたよね。用具係の人も『急に休みとか言われてもやることないよ』って笑っていた。

 でもそれって普通の感覚からしたら、働き方的にどうなんだみたいなことがある。サッカー界にいたらそこに気づかない。ちょっと怖いなと思ったんです。自分たちが普通と思っていることが、実は全然普通じゃないのかもしれないと思った」

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