「取りつかれているんじゃないか」延々と続いたサッカー談義に感じたスペインの熱量

2022年12月01日 小宮良之

最後は「もう帰らせてくれ」と

スペインのサッカー番組には、ロティーナ監督の姿も。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 筆者は取材とは別に、しばしば選手とサッカー談義を長々と交わす。現場の選手の話を深く聞くことで、見えてくるものがある。それは練習場や試合後に‟ぶら下がり"で聞くだけでは得られないもので、その人脈こそが取材者としての価値と言える。

 5時間ぶっ続けで話すようなことも少なくない。そこで問われるのは、サッカーの熱量だ。
 
 スペインで、監督たちと1日行動をともにしたことがある。ランチに各クラブの各カテゴリーの指導者たち4、5人が集った。サッカー論をぶつけ合い、半ば喧嘩腰。食事を進めながら際限なく続き、デザート、カフェで再び話が盛り上がった。知らない間に、帰った指導者と加わった指導者がいた。また話が様々な方向に飛んだ。

 外に出ると、夕暮れにはまだ早かった。スペインのランチは15時くらいにスタートするのだが、18時を過ぎていた。そして通りに出て、「じゃあな」と言ってから、帰途につく一人をつかまえて、また話が再開し、そこからの立ち話で30分ほどが経った。
 
 地元のテレビ局に向かい、彼らは夜9時のサッカー番組に出演すると言う。テレビ局の待合室に入れてもらうと、新たに元選手や指導者が加わった。中には、その後、Jリーグのクラブで指揮を執ることになったミゲル・アンヘル・ロティーナもいた。言うまでもないが、サッカー談義に花が咲いた。控室のお菓子を食べながら、またしても話が止まらない。まるで耐久レースだ。

 筆者は、ここで集中力が切れた。スペイン語でのやりとりを続けているだけに、疲れも出るわけだが、とても敵わない。番組を控え室で見ながら、舟を漕いだ。

 彼らはモニターの中、とうとうとサッカーを語っていた。当然だが、カメラが回っているせいで、言葉遣いは丁寧だった。そして1時間近い収録を終え、彼らは帰り際もサッカー談義を続けていた。

<サッカーに取りつかれているんじゃないか>

 真剣に思った。最後は、「もう帰らせてくれ」と思っていた。
 
 サッカーはコミュニケーション、という言葉をしばしば聞く。ここまでやっても、意志など疎通できない。しかしおそらくだが、意志など通じない、と思うところまで意志を通わせようとして、初めてスタートラインに立てるのだ。

 彼らはそれが日常にある。サッカー談義の内容も濃厚で、その辺のサッカーオタクが話しているレベルではない。実戦と考察を繰り返し、導き出した論をぶつけ合っているのだ。

 カタールW杯、日本はグループリーグでスペインと激突する。言うまでもなく、手ごわい相手である。その邂逅で、日本サッカーの真価が問われる。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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