【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の四十二「原始的マンマーク」

2015年10月28日 小宮良之

「もし誰かに負けるなら、セルタのようなチームに負けたい」(ルイス・エンリケ)

“ビエルサの流派”に属するとも言えるアルゼンチン人のベリッソ監督。伝統的な戦い方を現代風にモデルチェンジさせ、強豪ひしめくリーガ・エスパニョーラで異彩を放つ。(C)Getty Images

「故きを温ね新しきを知る」
 
 彼らの戦いは、その諺の実践だったのかもしれない。リーガ・エスパニョーラ5節、本拠地バライードスで王者バルセロナと対戦したセルタは、マンマークディフェンスとショートカウンターをミックスした戦術によって、4-1と勝利を収めている。
 
 セルタは強大な攻撃力を持つバルサの選手を前にしてもずるずるラインを下げず、前線から圧力をかけ続けた。全員が1対1を挑み、パスミスを誘発し、勇敢にショートカウンターの矢を放った。とにかく目の前の敵に対して激しく寄せ、相手の陣形が整う前に素早く攻め込んだ。
 
<相手に呼吸をさせない>
 
 感嘆するほどの苛烈さがあった。
 
 この戦術を完成させたのは、アルゼンチン人のエドゥアルド・ベリッソ監督である。ベリッソはアスレティック・ビルバオやチリ代表でこの戦術を操った名将マルセロ・ビエルサの"流派"と言える。
 
「もし誰かに負けるなら、罠を仕掛けるようなチームよりも、セルタのようにフットボールで挑んでくるチームに負けたい」
 
 敵将のルイス・エンリケにそう言わしめるほどの堂々とした戦いぶりだった。
 
 戦術的にギャンブル性が高かったことは間違いない。ネイマールにドリブルで攪乱され、崩壊しかける場面もあった。後半は足が止まり始めたし、前半もいくつかの決定機を作られており、ツキに見放された場合には大敗もありえた。
 
 しかし剣闘士のような1対1を挑み、彼らは勝った。攻撃ではノリートを中心に、バルサの脆弱な両サイドを粉々に砕いた。
 
 これは最新の戦術にも見えるが、伝統的な戦い方を現代風にモデルチェンジさせただけとも言える。
 
 戦術の基本にあるのは、原始的な1対1。守備でも攻撃でも、対面する敵に決して負けない。昔ながらのフットボールの原則に従っている。そして自分たちがボールを持ったら、ゴールというフットボールの最大目標に向かい、相手の虚を突く機動力を失わず、同時にその精度も保ちながら単純明快に加速していく。
 
 では、やり方としての目新しさはないにもかかわらず、なにが強さにつながっているのか?

次ページ日本人は集団戦術に優れ、そこを頼りにしている面もあるが…。

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