現地紙コラムニストが綴る――武藤嘉紀のブンデス挑戦記「苦闘する武藤。危機的状況のチームの中で」

2015年10月27日 ラインハルト・レーベルク

開幕当初の“軽快さ”が失われた。

190センチの大型CBガルベスと競り合う武藤(左)。1点を奪ったものの、劣勢を強いられる場面が多く見受けられた。 (C) Getty Images

 現在の武藤嘉紀は調子が良いとは言えない。理由はいくつか考えられる。海外でプレーするのは初めてのうえ、ここまで10試合すべてに出場している。そのうち9試合はスタメン出場だ。さらにここに日本代表戦も加わるのだから、エネルギーが消耗するのは当然だろう。今後武藤は、そうしたハードスケジュールに耐えうるだけの肉体的、そしてメンタル的タフネスを身に付ける必要がある。
 
 3得点・3アシストというここまでの成績は、決して悪くない。いや、素晴らしいとさえ言える。だが、今の武藤には開幕当初に見られた "軽快さ"が失われている。これにも要因がある。武藤は本来、ドリブル能力に優れたウインガーだ。しかし、マインツでは4−2−3−1のシステムの1トップとしてのプレーを要求されている。

 マインツにおいてCFはチームがボールを失った後、相手のビルドアップの芽をつむためにプレスの先鋒ならなければならず、また敵最終ラインの裏へのスプリントも必須だ。さらに巨大なCBを相手に、地上戦でも空中戦でも、競り勝つ必要がある。

 本拠地コファス・アレナにブレーメンを迎えた10節(10月24日)の試合(1−3)では1ゴールを奪ったものの、軽量級の武藤(178センチ・72キロ)はヤニック・ヴェステルゴー(199センチ・98キロ)やアレハンドロ・ガルベス(190センチ・79キロ)とのマッチアップで劣勢に立たされていた。

 武藤個人のみならず、チームも危機的状況に陥りつつある。シーズンのスタートは良かったものの、今はどの選手も自信をなくしているように映る。戦術的秩序が乱れ、選手間の距離が間延びし、生命線であるゲーゲンプレスが全く機能していない。

 さらに問題なのが、引いて守備を固められると攻め手がなくなること。「守→攻」の素早い切り替えからの速攻を得意とする反面、パスの正確性、安定性に乏しく、ボールをつないで局面を切り開く遅攻を苦手としているのだ。

 そうした状況下で苦しむのはCFだ。実際、このところは最終ラインから最前線の武藤に効果的な縦パスが届くことはほとんどない。それどころか、サイドからのシンプルなクロスさえ入らない。武藤はパスを引き出そうと、スペースへとスプリントを繰り返しているが、それが無駄になることが多い。

次ページ武藤が本来プレーすべきは左サイドだが…。

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