連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】崖っぷちの松本 反町監督が認識する「見直すべき部分」とは

2015年10月25日 熊崎敬

先制しながら落ち着いて試合を運べない苦しさ。

鳥栖に逆転で敗れ、崖っぷちに追い込まれた松本。試合後、反町監督は「(選手には)ひとつのプレーが流れを大きく変える怖さを感じてほしいと思っていたが、最後まで直せなかった」と語った。 (C) SOCCER DIGEST

 ホーム最終戦で鳥栖に敗れ、松本がいよいよ崖っぷちに追い詰められた。
 
 スコアは1-2。松本はオビナのPKで先制したが、鳥栖との地力の違いは明らかだった。
 
 前半、松本は攻撃の形を創ることができなかった。
 
 後方からテンポよくパスをつなぐ鳥栖の攻めに中盤が振り回され、5バックが押し込まれた。そのため攻撃は単調なロングボールばかりに。オビナ、ウィリアンのブラジル人2トップはサポートの少ない中、鳥栖の3バックに厳しくマークされ、ゴールに迫ることができなかった。
 
 劣勢の前半をスコアレスで折り返した松本は後半、課題を修正してきた。WBが高い位置を取り、途中出場の前田が再三、右サイドのスペースを突いたことで、角度のあるクロスが入るようになった。オビナのPKにつながるプレーも、鋭い右クロスから生まれた。
 
 待望の先制点にアルウィンは文字通り沸き立った。
 
 だが先制しながら、落ち着いて試合を運べないところに松本の苦しさがある。4バックに切り替え、攻撃を補強した鳥栖と撃ち合うような形となり、個々の能力の差が次第に露わに。77分、87分と立て続けに失点することになった。
 
 試合後、反町監督はこう語った。
「リーグを通じて、ひとつのプレーが流れを大きく変える怖さを感じてほしいと思っていたが、最後まで直せなかった。技術で引けを取ることをわかった上でチーム作りをしてきたが、そうした部分が徐々に露呈して差がつく展開になったことは否めない」
 
 次は、終盤に失点が多いことについて。
「その要因がわかれば、処置を取るのが監督の仕事なので何とも言えないが、足が止まっているわけではない。ただ、少し隙を見せている部分はある。繰り返し言いますが、90分の中のワンシーンでゲームが大きく動くのがサッカーなので、個人の力を含めてもう一度見直していかなければならない」
 
 J1はJ2と違って、反町監督の言うちょっとした隙が失点につながる確率が高い。この鳥栖戦でも、そうしたシーンがあった。
 
 87分に許した2失点目は、鳥栖を褒めたくなるような美しいパス交換から生まれた。鎌田の巧みなシュートフェイントからのパス、水沼と豊田のトリッキーなワンツー。それは中央突破のお手本のようなプレーだった。
 
 だが、このゴールは松本の隙がなければ生まれなかった、という見方もできる。ボランチの岩間が不用意に敵に飛び込んだことで、危険なポジションにいる鎌田に縦パスが通されてしまったのだ。
 
 岩間には早く追いつきたい、そのためにもボールを奪わなければ、という焦りがあったのだろう。だが彼は、背後の鎌田へのパスコースを大きく開けたままボール保持者に食いつき、あっさり背後を取られてしまった。これで松本の守備は次々とずれていき、ゴールを失った。これが崩されるということ。
 
 日本人は規律があり、ポジションをしっかり守るというイメージがあるが、Jリーグを見ているとそうでもない。運動量や流動性が持て囃される一方で、正しいポジションを取るということが疎かにされている。
 
 イタリアのサッカーに精通する知人がかつて「Jリーグはスライディングが多い」と話していたが、それもポジショニングの問題だろう。
 
 私たち日本人はちゃんとサッカーをしているつもりでも、よそから見ると穴だらけに見えるようだ。一度、足下を見つめ直すべきだろう。
 
取材・文:熊崎敬
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