我慢と辛抱のシーズンを戦い抜いた仲川輝人。3年ぶりJ1制覇の背景にあった30歳アタッカーの“人間的成長”

2022年11月06日 藤井雅彦

「優勝を決められてホッとしている」

自身2度目のリーグ優勝を喜んだ仲川。「ホッとしている」と安堵した。写真:田中研治(サッカーダイジェスト写真部)

[J1第34節]神戸1-3横浜/11月5日/ノエビアスタジアム

 試合終了のホイッスルは、横浜にとって3年ぶりの戴冠を意味していた。

 チームの3点目を決めた仲川輝人は歓喜の輪に加わり、自身2度目となるリーグ優勝を喜ぶ。次に旧知の仲である喜田拓也や、シーズン途中に無念の負傷離脱となった宮市亮と熱い抱擁をかわし、感動を分かち合った。

 その数分後、盛り上がりがひと段落したあとのこと。仲川は選手やスタッフから少し離れた場所でひとりピッチに膝をつき、両手の人差し指を天に向かって立てる。お馴染みのゴールパフォーマンスとともに、優勝の味を静かに噛みしめた。

「最後までどうなるか分からない試合だった。そういった緊張感ある試合で優勝を決められてホッとしている」

 先に込み上げてきた感情は安堵だったのだろう。目を輝かせながら声を弾ませた3年前の優勝時とは、様子が明らかに異なっていた。

 優勝に王手をかけて臨んだG大阪戦(0-2)と磐田戦(0-1)に連敗。不甲斐ない黒星を喫したG大阪戦後には「個人の技術が足りなかったり、イメージの共有もなかったり。弱いです。まだまだ甘いんじゃないですか」と吐き捨て、自ら取材対応を切り上げた。
 
 依然としてJ1制覇へ向けて有利な状況は変わらずとも、あえてチームに警鐘を鳴らそうという意図が見え隠れする。
 
「サッカーは何が起こるか分からない。少しでも隙を見せたら足もとをすくわれる。悔いは残したくない。こんなチャンスは滅多にないから。キャンプからスタートした素晴らしい1年をしっかり締めくくれるようにしないと。気の緩みがあるとすれば締めていかないといけない」

 勝者のメンタリティを持つ選手として、最後の最後まで緩むことなく戦い抜いた。

 自身の今季のパフォーマンスを振り返ると、我慢の連続だった。「ゲームチェンジャーとして出場する選手としての役割がある」と語った通り、途中出場の試合も多々あった。原因は開幕直後の負傷で、ほとんどの時間を万全な状態で過ごせていない。痛みと付き合いながらプレータイムを制限し、なんとか長期離脱を避けて戦い終えられたのが真実だ。

 MVP&得点王に輝いた2019年は、34試合中33試合に先発して2,796分に出場した。対して、今季は31試合に出場したものの先発は15試合にとどまり、出場時間も1,472分。3年前と比較すると半分程度しかピッチに立っておらず、我慢と辛抱のシーズンに。「満足はほぼしていないし、非常にもったいないシーズンだったと思っている」と首を横に振るのも仕方ないだろう。
 

次ページピッチ上でエゴは一切見せず。心掛けた“チーム優先”

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事