【横浜】天皇杯・再開試合の舞台裏。決勝アシストの奈良輪が延長突入で微笑んだ理由

2015年10月15日 藤井雅彦

緊張を受け入れ、楽しみ、結果を出す。

公式戦のピッチは実に半年以上ぶりだったが、積極的なプレーを披露した奈良輪はアデミウソンのゴールをお膳立て。「いつチャンスが来ても大丈夫なように準備していた」という言葉どおり、期待に応える働きぶりで勝利に貢献した。(C)J.LEAGUE PHOTOS

「限られた時間のなかで、なにができるか」
 
 奈良輪雄太は自分にそう言い聞かせて、3月18日のナビスコカップ予選リーグ1節の仙台戦以来、半年以上ぶりとなる公式戦のピッチに立った。
 
 舞台は、10月11日に行なわれた天皇杯2回戦・MIOびわこ滋賀との再開試合である(編集部・注/同試合は9月6日に実施も、豪雨によるピッチコンディション悪化のため、後半途中に中断後、中止に)。73分16秒からのスタートという、誰も経験したことのない状況とはいえ、横浜がJFLのMIOびわこ滋賀を押し込む展開はある程度予想できた。
 
 普段とは異なるシチュエーションではあったが、奈良輪はその高い攻撃性能をいかんなく発揮。試合再開と同時に右サイドを激しくアップダウンし、攻撃に積極的に関与していった。
 
「自分の持ち味は低い位置でのボール回しではなく、高い位置で何度ボールに絡めるか」
 
 マイボールになればウイングのようなポジショニングから、攻撃に厚みを加えていった。
 
 試合はアディショナルタイム3分を終えてもスコアは1-1のまま動かず、延長戦へ。その時、奈良輪だけは密かに微笑んでいたという。
 
「久しぶりの試合だったので正直、(73分からの)約15分で終わってほしくなかった。延長戦に入ると決まった瞬間、最低でもあと30分はプレーできるな、と」
 
 迎えた延長前半の95分、ここまで幾度となく繰り返していたオーバーラップがゴールという形で結実する。利き足の右足から左足に持ち替えてクロスを送ると、ファーサイドで待っていたアデミウソンの頭にピタリ。自陣に戻りつつ、小さなガッツポーズを作った。
 
 試合後、殊勲の右SBは胸を張って言った。
 
「自分には今まで与えられたチャンスをモノにしてきたという自信がある。久しぶりの試合だったけど、いつチャンスが来ても大丈夫なように準備していたので不安はなかった。もし出来が悪かったら、それは自分が力不足だということ」
 
 前所属のSAGAWA SHIGA FCの活動停止という予期せぬ事態を経て、横浜に加入したのが2013年のこと。そのシーズンはチームが1年を通して優勝争いに加わり、奈良輪は左右のSBの貴重なバックアッパーとしてその地位を確立した。
 
 当時は左SBにドゥトラ、右SBは小林祐三という実績に勝る選手がレギュラーとして試合に出場していたが、負傷や出場停止の際には堅実なプレーで穴を埋める。最終的には優勝を飾った広島との大一番(29節/○1-0)では、左SBとして出場し、対面のミキッチをシャットアウトする働きを見せた。
 
 そして今回の難しい一戦では3-1の勝利に貢献し、自身も決勝ゴールのアシストという重要な役割を果たしてみせた。だが、試合後は少しおどけた表情で本音をこぼす。
 
「今日ももちろん緊張しましたよ(笑)。一昨年も昨年も、続けて試合に出ている時も緊張していたし、それが当たり前だと思ってリズムを作っています。そう割り切って試合に入っているし、だから緊張していることとパフォーマンスの良し悪しはあまり関係ないんです」
 
 緊張を受け入れ、楽しんでいるようにも見える。そしてピッチ上でのパフォーマンスと結果で存在意義を示す。それが奈良輪の流儀である。
 
取材・文:藤井雅彦(ジャーナリスト)
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