「人生が終わったと思った」山本英臣にサッカーの神様が微笑んだ理由。後輩が明かす甲府のバンディエラからの「貴重な言葉」が天皇杯優勝の要因だ

2022年10月16日 志水麗鑑(サッカーダイジェスト)

「自分がタイトルを獲らせたわけではない。みんなに獲らせてもらった」

天皇杯優勝に喜ぶ山本。在籍20年目にして初のタイトル獲得だ。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

[天皇杯決勝]甲府1(5PK4)1広島/10月16日/日産スタジアム

「このまま辞めようかなと思った」

 広島との天皇杯決勝、1-1で突入した延長戦に途中出場した甲府の山本英臣は、ハンドでPKを献上して、「人生が終わったと思った」という。それもそのはず、クラブ在籍20年目にして迎えた悲願のカップ戦ファイナルの舞台で、「僕は1試合しか出ていない。僕以外の選手でここまで来れた」のだから、自らのミスで優勝を逃したら「終わった」と思うのも無理はない。

 しかし、このPKをGK河田晃兵がビッグセーブ。1-1で延長戦を乗り切り、迎えたPK戦でも河田が広島4人目のキッカーのシュートを防ぐ。ネットを揺らせば優勝が決まるラストキッカーを任された山本は、「救ってもらった命だと思い、狙い通りのキックができた」と歓喜を呼び込んだ。

 セレモニーでは優勝カップを主将の荒木翔から渡され、山本は「感謝しています」と述べた。さらに「自分がタイトルを獲らせたわけではない。みんなに獲らせてもらって、あの場に立たせてもらって本当に感謝しています」と感慨深そうに言葉を続ける。

 山本にとって、あまりにもドラマチックな展開だった。最大の立役者である甲府在籍9年目の河田は「このクラブを支え続けている選手なのは間違いない。42歳なので、ここまで来たらタイトルを獲らせてあげたい気持ちがあった」という。優勝カップを渡した荒木は「僕なんかがカップを手に取るのはおこがしい。このクラブにあんだけ貢献してきた選手が最後にカップを上げてほしかったし、みんながそれを望んでいたと思う」と話した。
 
 山本英臣のためにタイトルを――。

 チームメイトがそう誓うのは、山本の貢献をよく理解しているからだろう。20年もクラブのために身体を張った期間の長さはもちろんだが、細部まで甲府のバンディエラの献身は行き届いている。天皇杯決勝の舞台で、山本が長く守ってきた3バックの中央のポジションを任された浦上仁騎は明かした。

「日頃の練習中から、オミさん(山本)からは細かいアドバイスをいただいています。例えば、『今の場合のポジショニングは、たぶんこっちのほうがいいと思うよ』というように。本人はそんなにアドバイスという雰囲気を出さず、ポロっと助言をしてくれますが、僕にとっては一つひとつの言葉が貴重。昨季に甲府に加入してから、すべての言葉が僕の成長につながっています。これは僕だけではなく、DFは特にオミさんからいろんな言葉をもらっています。だから、甲府にとってオミさんは本当になくてはならない存在です」

 天皇杯決勝の浦上は、堅守を武器に5年連続でJ1を戦った時代(13~17年)の山本を見ているようだった。周囲に的確な指示を送って最終ラインを統率し、「スライドとチャレンジ&カバーについては周囲にずっと声をかけた。しっかりコーチングできたから、準決勝の鹿島戦同様に守備が崩れなかった」と胸を張った。

 浦上の活躍を支えた山本の日々のアドバイスも、天皇杯優勝の要因のひとつと言えるだろう。42歳となりさすがに出場機会が減ってきたが、チームのために、ポジションを争うライバルに的確な助言を送る。そうしたクラブのための努力の積み重ねがあったから、タイトルという結果でサッカーの神様が微笑んだのかもしれない。

 山本にとってヴァンフォーレ甲府というクラブは「家族」だという。家族とは多くの人にとって切れない縁で、どんな時でも支え合う絶対の味方だと思うだけに、甲府にすべてを捧げてきたバンディエラの言い得て妙な表現がジーンと胸に響いた。


取材・文●志水麗鑑(サッカーダイジェスト編集部)
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事