【連載】月刊マスコット批評④「サンチェくん」――みきゃんに見習ってほしい執念

2015年10月10日 宇都宮徹壱

今年のJリーグマスコット総選挙ではセンターポジションを勝ち取る。

涙ぐましい努力と旺盛な成り上がり精神を見せるサンチェくん。Jリーグマスコット総選挙への執念は凄まじい。写真:宇都宮徹壱

サンチェくん(サンフレッチェ広島)
 
■サンチェくんの評価(5段階)
 
・愛され度:3.5
・ご当地度:3.0
・パーソナリティ:4.5
・オリジナリティ:3.5
・ストーリー性:4.0
・発展性:4.5
 
 先月、取材で愛媛に行ってきた。そこで私を大いに困惑させたのが『みきゃん』の存在。というよりも県を挙げての「みきゃん推し」の実態であった。

 みきゃんというのは愛媛県のゆるキャラで、2017年に開催されるイメージキャラクターにもなっている。その名が示すように、愛媛県特産のみかんと、子犬を想起させる哺乳類とを合成させたようなキャラクターである。まあまあ可愛い。けれども、可愛い以外に取り柄もなければ芸もない。今ひとつパンチに欠けるキャラクターなのである。
 
 このみきゃんを、今年のゆるキャラグランプリで優勝させようと、愛媛県は躍起になっている。松山空港でも県庁でも街中のコンビニでも、ありとあらゆる場所で「みきゃんにあなたの一票を!」と訴えるポスターやステッカーを目にした。さらに聞くところによると、県の職員はゆるキャラグランプリの公式サイトにアクセスし、毎日みきゃんの投票ボタンをぽちっと押すことが半ばノルマになっているのだそうだ。
 
 仮にみきゃんがグランプリを獲得したとして、県民にどのような恩恵があるのかは知らない。が、ひとりのマスコット好きとしては、県を挙げてのゴリ押しには「何だかなあ」と困惑するばかりである。
 
 こうしたゴリ押しが、まわり回ってみきゃんのイメージダウンにつながるとしたら本末転倒である。少なくともみきゃん自身が、本当に「てっぺんを獲ったる!」という意欲があるのなら、その気概を広くアピールすべきだ。
 
 その手本となるのが、サンフフレッチェ広島のサンチェくんである。2年前の第1回Jリーグマスコット総選挙では37体中32位に終わったが、昨年は一躍2位に順位を上げ、今年は悲願のセンターポジションを勝ち取った。このところ人気に陰りが見えるオリジナル10勢にあって、サンチェくんだけは異様に鼻息が荒い。
 
 実際、サンチェくんの総選挙に対する執念には凄まじいものがあった。昨年は黒目を大きくお目目ぱっちりにする整形手術を敢行。今年は札束攻勢を匂わせる画像をツイッターにアップするという、炎上すれすれのアピール作戦を繰り広げた。サンチェくんが並み居るライバルたちの頂点に立てたのは、単に「可愛いから」ではなく、当人(当熊?)の涙ぐましい努力と旺盛な成り上がり精神が有権者の支持を集めたものと推察する。
 
 今年のゆるキャラグランプリでは1位をキープしているものの、『出世大名家康くん』(浜松市)の追走に怯えているみきゃん。可愛いだけで終わるのか、はたまたサンチェくんのような凄まじい執念を見せるのか、注目したい。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式メールマガジン『徹マガ』。http://tetsumaga.com/
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