【EURO2016予選プレビュー】脇役に甘んじてきた代表で満を持してエースの座に――ダビド・シルバ(スペイン代表)

2015年10月09日 ワールドサッカーダイジェスト編集部

円熟味が増した天才レフティー。

マンチェスター・Cではここまで8試合で1ゴール・6アシストと好調のシルバ。シャビ、シャビ・アロンソの2人が抜けたスペインを牽引する存在として、デル・ボスケ監督からの信頼も厚い。 (C) Getty Images

 マンチェスター・Cの大黒柱として君臨するダビド・シルバは、しかし、母国スペインではそのステータスに見合った評価を得られない時期が長く続いた。
 
 国外リーグへの関心度が低いファンの気質、本人の控えめな性格といった要素に加えて、スペイン代表で実力どおりのパフォーマンスを散発的にしか示せなかった点が、そうした状況を後押しする格好になっていたのである。
 
 たしかにEURO2008では、「クアトロ・フゴーネス(4人の創造者たち)」の一角として優勝に貢献する活躍を見せたものの、代表ではつねにシャビやシャビ・アロンソ、アンドレス・イニエスタら年長に主役の座を譲り、シルバは脇役に甘んじた。
 
 スペインが世界一に輝いた2010年ワールドカップでは準レギュラーの域を出ず、昨年のワールドカップも初戦のオランダ戦で先制ゴールを許す直前にビッグチャンスを逃して非難の対象に。そのプレーがスペインの命運を決めたターニングポイントとして、クローズアップされた。
 
 ビセンテ・デル・ボスケ監督の評価が低いわけでは、決してない。事実、過小評価されている選手の代表格として、ことあるごとにシルバの名前を挙げていた。したがって昨夏にシャビ、シャビ・アロンソが引退した新生スペインの中盤のニューリーダーとして指揮官がシルバを指名したのは、ごく自然な流れだった。
 
 監督の信頼は、ピッチ上で享受している役割に表われている。右サイドが基本的な持ち場ながら、1トップの背後で自由を与えられているマンチェスター・Cと同様、頻繁に中央に流れてゲームメークに関与する。
 
 視野の広さと卓越したテクニックを活かしたタッチ数の少ない素早いパス交換による局面打開力も出色で、トリッキーなドリブルを巧みに織り交ぜながら崩しの起点として不可欠な働きを見せる。
 
 逆サイドのジョルディ・アルバに正確無比のピンポイントパスを送ったEURO予選のスロバキア戦(9月5日)の先制アシストは、そうしたシルバの真骨頂が発揮されたシーンだった。
 
 さらに右サイドにおいては、中央のバイタルエリアに流れてボールを引き出してタメを作ることで、ファンフランのオーバーラップを促すといった具合に、スペイン代表の肝である両サイドのスペース作りを意識しながらプレーしていた。その姿は、まさに司令塔のそれだ。
 
 23得点・20アシストという代表での数字が示すように、ゴールに直結した仕事ができるアタッカー色の強い持ち味も、もちろん健在。大黒柱としての自覚は、これまで以上に積極的にパスワークに寄与しようという姿勢に表われている。
 
 すでに29歳。その実力を考えれば、遠回りをした印象もなくはない。だが、思えばシャビも代表で本当の意味で大黒柱のステータスを手にしたのは、今のシルバとほぼ同じ年齢だった。満を持して代表エースの座にのし上がった天才レフティーが、スペインの命運を握っている。
 
文:下村正幸
 
※ワールドサッカーダイジェスト2015.10.15号より加筆・修正
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